豪栄道は大関昇進させぬべきだったのか。33勝というラインの正当性と、その大いなる誤解について考える。

豪栄道に後がなくなった。
先場所の負け越しに続き、初場所も序盤から星が上らない。
直線的に決めに掛かれば良いところを、
一呼吸置いてしまうので反撃を受ける。
このような相撲を観ていると、どうしても
不振を精神的なものとして受け止めてしまう。
少なくとも関脇:豪栄道の相撲と、
大関:豪栄道の相撲は別物である。
ここまで苦労を見ている分だけ、
どうにかこの局面を打開してほしい。
そんな豪栄道に追い打ちを掛けるように、
ひとつの意見が持ち上がっている。
豪栄道は大関にするべきではなかった、と。
今の豪栄道を見ていると、確かに大関としての
務めは果たせていない。
昇進直後がハチナナ、先場所は負け越し。
そして今場所が負け越しの危機。
これは擁護しようがない事実である。
今の不振に関して、豪栄道はどう批判されても仕方が無い。
大関というのはそういう立場なのだ。
ただし、それは大関昇進後の話だということを忘れてはいけない。
昇進直前の豪栄道が大関に相応しかったか否かは
全く別の話なのである。
ここで豪栄道昇進を否定している方は、32勝での昇進を問題視している。
よく語られることだが、直前の3場所での33勝というラインは
絶対的なものではなく、あくまでも過去の昇進から見た目安である。
この目安が近年メディアを中心に独り歩きしており、
33勝に満たない力士の昇進させる際に、批判を受ける結果となっている。
つまりは、本来大関の実力に満たないものを
下駄を履かせて大関に仕立ててしまった、ということだ。
だが、実に面白いことに直前3場所の成績は
大関昇進後の成績とはあまりリンクしていないのである。
ではここで、33勝に満たずに大関昇進した力士を挙げてみよう。
◆過去3場所33勝未満で大関昇進した力士(ここ50年)
力士名  :直前3場所 最高位
豪栄道  :32勝13敗 大関
稀勢の里 :32勝13敗 大関
千代大海 :32勝13敗 大関
大乃国  :31勝14敗 横綱
琴風   :31勝14敗 大関
増位山  :31勝14敗 大関
三重ノ海 :32勝13敗 横綱
魁傑   :30勝15敗 大関
北の湖  :32勝13敗 横綱
清國   :31勝14敗 大関
琴桜   :32勝13敗 横綱
玉乃島  :30勝15敗 横綱
北の富士 :28勝17敗 横綱
これを見ても分かるように、直前の成績は直前の成績に過ぎず、
その後の活躍は偏にその力士次第なのである。
32勝の豪栄道が昇進すること自体、問題ではない。
問題なのはその後だ。
ただ相撲協会の手落ちが無かったわけではない。
たとえ昇進ラインについて明文化されていないにしても、
近年メディアの間で33勝が独り歩きしていることは
考慮するべきではあった。
もし、豪栄道がこのような事態になった時に
豪栄道も協会も批判に晒される可能性は十分想定されたからだ。
ましてや豪栄道は日本人である。
日本人優遇という、もう一つの批判を浴びる事にも繋がる。
だからこそ、豪栄道次第だったのだ。
このような状況を総合的に考えて、
私は大関昇進基準が不明確であることを理由に
豪栄道昇進の全てを肯定する気は無い。
しかし私が意外だったのは、豪栄道の現状である。
「豪栄道は大関昇進する力は無いが、大関を維持する力は十分有る」
と説明し続けてきた私である。
大関に昇進するには爆発的な成績を挙げねばならない。
過去の豪栄道はこれが出来なかった。
だが大関を維持するには、2場所連続負け越しを避ければよい。
豪栄道が最後に2場所連続負け越ししたのは、平成24年1月のこと。
つまり、3年前だ。
この時点で大関に昇進していた場合、
豪栄道は丸3年間、18場所大関を維持していたことになる。
その豪栄道が、2場所連続負け越しがすぐそこに迫っている。
これこそが、異変なのである。
だから、
「豪栄道の不振は容易に想像できた」
という方も一定の割合で存在するが、
このような豪栄道の実績を考慮すると
それは大関昇進を快く思わないが故の
悲観的観測と言わざるを得ないのである。
上位フル対戦で3年間2連続負け越しの無い力士について、
大関昇進を機にいきなり不振に陥ると想定するには
論理的な理由が見当たらないし、大関昇進が精神面に与える影響が
ここまで深いと予測する要素も存在しない。
故に客観的な事実を考慮すると、
協会が大関昇進を判断するのも理解できる。
重圧に耐えられるだけの力士であると判断するのも理解できる。
たとえ32勝であったとしても。
ただ、相撲協会は豪栄道を追い込んでしまった。
今後を考えると、たとえ大関昇進ラインの正当性が有っても
豪栄道のことは悪しき先例として語られることになると思う。
33勝を下回った力士が大関昇進後、同じような状況に陥った時
更なる批判に晒されることは容易に想像が付く。
この手の誤解については、誤解している側に
思考を寄せていかないと更に傷が深まる。
だからこそこれは今後の話だが、33勝を上回って初めて
大関とせざるを得ないのは間違いない。
誤解と呼ぶにはあまりにも数字が定着し過ぎている、大関昇進基準。
そのことに対してもう少し過敏に反応すべきだったのである。
まずは豪栄道が、この危機を脱することを願う。
32勝でも、相撲協会が大関に相応しいと判断した力士なのだから。
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