謝罪する白鵬と、美味そうに飯を喰らう白鵬。大横綱であり一人の若者:ダワー君としての白鵬を、もう一度見直そう。

SmaStationで、白鵬が謝罪した。
正直何を言っているか分からなかった。ただ、神妙な面持ちで「迷惑をお掛けして…」という話をしていたので、ああこれは謝罪なのだと分かった。あれほど日本語の上手い白鵬が、今日は喋りがおぼつかなかった。私はこれほどたどたどしく話す白鵬を見たのは初めてだ。恐らく白鵬自身もそうだろう。
こんな何を言っているのか、何を謝っているのかよく分からない挨拶をすること自体も驚きだったが、恐らくこれが謝罪ということで手打ちだということが見えたことも驚きだった。こちらが気を揉んで、何とか誰も傷つかない形で終わって欲しいと願い、その願いを記事に託していたのにこのような形で終ったのだ。
恐らくこれが白鵬にとっての禊だったのだろう。周囲からも散々責められ、33回目の優勝のことなどもう皆忘れている。覚えているのは審判部に文句を言っている、目の座ったかつての大横綱の姿だけだ。
悲しかった。
こんなことでいいのだろうか。
私はそんなことを考えていた。
もはや思考力など無い。テレビを付けながら「スージョ」についての賛否両論について呟きながらも、心はそこには無かった。23時過ぎという寝るには少し早い時間だからこそ、寝る前のロスタイムを消化せねばならない。ぼんやりとしながら寝る準備を整えていた時に、もう一度SmaStationを見た。
白鵬が、人気料理を喰らっている。
土俵では見せない、いい顔だ。
複雑な心境が整理できていないところに、いきなりのオフショットである。本来力士と萌えというのは私にとっての大好物なのだがいきなり萌えに振り切れるほど今回の問題は小さくない。むしろ自分の胸に去来したそういう想いを追い出そうと試みた。だが、白鵬は今日の番組で様々な料理を食べる。実に良い表情だ。ポツリと「子供でも食べられる」という気になる発言も有り、おいおい大丈夫かよ、などと肝を冷やしながら、私は自分の変化に気付いた。
白鵬ってこんな人なのか。
面白い奴じゃないか。
冒頭での硬さが取れ、どんどんいい表情になる白鵬。だが硬さがとれたのは、白鵬だけではなかった。そう。白鵬に対して色眼鏡で見ていた私である。そういえば私は白鵬を土俵上の激しい白鵬、そして土俵外での完璧な白鵬としてしか捉えていなかった。今日現れたのは今まであまり見たことの無い、私の知らない白鵬だった。いや、あれは生身の白鵬、すなわちダワー君だったのである。
白鵬は土俵上では最強であることを追い求め、土俵外では世間が求める横綱像で有り続けようとした人物である。だからこそ、私は白鵬を演じる白鵬しか知らなかった。白鵬自身も大横綱であり続けようとした結果が、土俵上での強さと土俵外での品格を産んでいたのではないかと思う。
だが、優勝記録に対する重圧故に演じることに対して歪が生じた。強さは荒さに転じ、品格有る行動にもほころびが生じた。そして、ストレスから開放された後でのあの発言。大横綱白鵬を演じる限界に来ていたのではないかと思う。私は飯を喰らう白鵬ではなくダワー君を見て、この顔が見られて良かったと思った。そして、もう一つ思った。もっとこの顔を見ていたい、と。
白鵬は素晴らしい力士であり、素晴らしい横綱だと思う。だが、それは理想像としてのそれである。もうその役割は十分果たしたし、そこに無理が来ていることは今回の一件で分かった。間違いは正せばいい。もう同じ行いをしなければ良い。大横綱だって、単なるアラサーの男なのだ。愛すべき人間なのだ。
オフショットを見ると更に力士が好きになるのは、その人間性に触れられるからだと私は思う。人間:白鵬が見えなかったからこそ、優勝記録を更新した今、もっとダワー君としての顔を見せてほしい。考えてみると朝青龍が人気だったのは、朝青龍という荒々しい力士である以前にお調子者のドルジ君としての
魅力的なほど魅力のある表情が見えていたからである。
本当の白鵬が見えた時、我々は白鵬に親しみを覚え、声援を送るのではないかと思う。ひょっとしたら行儀の悪い行為ではあるが、白鵬コールが起きるかもしれない。もう大久保利通の話も、強い女性の話も要らない。完璧な横綱として自分をプロデュースする必要も無い。無理をしなければ、こちらも間違いに寛容に成れると思うし、白鵬自身も自然に謝ることが可能だ。白鵬とダワー君が歩み寄った時、また新たな横綱が誕生するのではないだろうか。そして、我々の白鵬に対する姿勢も変わるのではないだろうか。
たどたどしい謝罪を終えて美味しそうに食べ続けるアラサー男性を見ながら、そんな日が来ることを期待した私なのだった。
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