「出ない」勇気。白鵬のカチ上げと張り差し対策に一つの回答を見た、九州場所。

素晴らしい勝利だった。
そして、素晴らしいインタビューだった。
付け加えると、見たことのない15日間だった。
日馬富士の騒動についてではない。白鵬が、ほぼ全て張り差しとカチ上げを選択し続けたことである。
確かに白鵬は、張り差しとカチ上げを多様するようになっていたのは間違いない。だが、ここまでこの二つを続けた場所も珍しいのではないだろうか。
白鵬は、モンゴル人横綱や大関に対してはこうした相撲は見せていなかった。考えてみると彼らとの直接対決が全く無い場所というのも珍しかったのではないだろうか。
これほどこの二つを効果的に用いて、勝ちを手繰り寄せられる力士は過去に類を見ない。もっとも、張り差しとカチ上げをこれほど多様すれば批判が起きる。いわゆる横綱相撲を要求される。賛否は有るだろうが、技術的に突き詰めた力士が居なかったのはそういう側面があることも事実だ。
白鵬は数字で見れば勿論、史上最高の成績を収めてきた横綱で、その貢献たるや言うまでも無いところだが、二つの技術を突き詰めて可能性を世に知らしめた革命者としても、後世に残るのではないかと思う。
今日は白鵬式のカチ上げを千代翔馬と千代の国が繰り出していた。一つの技術としてフォロワーをも生み出している。力士の中でも価値観が変容してきていることを示すエピソードではないだろうか。
これほど白鵬が二つを多用すると、思うことがある。
そう。
何故他の力士は工夫しないのか。
食い続けてしまうのか。
そんな風に指摘したくなる気持ちも分かる。私自身そう思う。ただ、高い次元で相撲を取り、白鵬を相手に勝利を目指して日々研鑽する彼らでさえ受け続けるのだ。素人が批判するのは簡単だが、食うには食うなりの理由がある。
張り差しをする力士も居る。
カチ上げをする力士も居る
だが、白鵬ほど効果的ではない。
白鵬は、カチ上げと張り差しを当てるのがとてつもなく上手い。ただ当てるのではなく、クリーンヒットさせる。これはもう、才能だ。ほぼ失敗が無い。今場所立ち合いで失敗したのは2回だけなのである。
ただ、もしかするとこの2番は、今後一つの可能性を見出す可能性があるのではないだろうか。その2番とは、白鵬が抗議した嘉風戦と、2度にわたって背後に回られた宝富士戦のことである。
この2番に共通しているのが、立合で突っ込んでいないことだ。
立ち合いで前に出ないことによって、打撃の直撃を回避する。そしてもう一つのメリットがある。打撃で隙が出来るのである。
脇がガラ空きになったところで、嘉風は双差しになった。そして、宝富士はサイドから攻め込み、背後に回ることに成功した。
白鵬は素晴らしくカチ上げと張り差しを当てる技術がある。だが、それは立合で前に出てくるという大前提が無ければ成立しない。立合ほど間合いがある状態では流石の白鵬も二つをヒットさせることは難しい。
どうやらその対策は多くの力士の知るところであるらしい。何故なら今日の豪栄道もまた、それほど突っ込んでいなかったからだ。結局上手を取られたために難しい相撲にはなってしまったが、出ないという選択肢は白鵬対策として機能し始めている。
今後、白鵬を相手に力士たちはどのように対峙するのだろうか。貴景勝や阿武咲といった若手や遠藤のような番付が下の力士たちは今のところ自分の相撲を取りに行くことに徹し、カチ上げか張り差しの直撃を受ける結果となっている。御嶽海や北勝富士も然りである。
考えてみると現在上位に位置する力士は、白鵬とあまり対戦経験の無い力士が増えている。そして、立合で出なかった嘉風も宝富士も豪栄道も、白鵬との対戦経験が豊富だ。
白鵬を挑む対象ではなく、勝つ対象として見られるか否か。出ないことは勇気が居ると思う。前に出てこられた時には、間違いなく対応できないからだ。そして、そのような相撲で敗れた時に後悔することになるからだ。
私は初場所が楽しみだ。若手の中で誰が白鵬を相手に出ない選択をするのか。そして恐らく、その力士が大関に最も近いところに居るからだ。
白鵬を相手に勝ちに行く勇気の有る若手の登場を、期待したい。
◆メディア情報◆
産経系サイトIRONNAに記事を掲載されました。
IRONNAに掲載された記事はこちら。
◆トークライブのお知らせ◆
12月2日18時より錦糸町丸井のすみだ産業会館でトークライブ「第4回幕内相撲の知ってるつもり⁉︎」を開催します。今回のテーマは「数字で振り返る、2017年の大相撲」です。今回は土曜日に行いますので、普段来られない皆様もふるってご参加ください。お待ちしております。
なお、参加ご希望の方は以下の予約サイトよりご登録下さい。
トークライブの予約サイトはこちら。
◇Facebookサイト◇
幕下相撲の知られざる世界のFacebookページはこちら。
◇Instagram◇
幕下相撲の知られざる世界のInstagramページはこちら。

「出ない」勇気。白鵬のカチ上げと張り差し対策に一つの回答を見た、九州場所。” に対して3件のコメントがあります。

  1. アロイ より:

    白鵬が追い求める後の先を、嘉風が体現しちゃったもんなー
    よく見るコメントの流れは
    かち上げは危ないという定義に対して
    脇が開くから完全無敵の技ではないと、信者が擁護して、挙句食う方に問題がある
    というのをよく見るけど
    誰もガチガチに固めた右肘のサポーターには触れないんだよなぁ
    まぁ嘉風の立ち合いが、今後安易にかち上げさせるのを防ぐ抑止力になるのでは?
    自分は大関から横綱初期に見られた
    立ち合い左上手を確実に取りに行く、あの白鵬の立ち合いが好きです
    アンチじゃないけど、あの万歳三唱はいらんかったなー
    今後の供述次第で自身も危ういの分かってるのかな?
    当事者がそうやすやすと新年迎えられるとは、俺は思えません

  2. みみ より:

    カチ上げと張り差し対策、大変興味深いです。白鵬にやられても、遠藤他、若手力士達が【自分の相撲】を貫いている姿も素晴らしいが、やっぱり、どこかで研究して、なんとか突破口を見つけてもらいたいです。貴殿のこの記事を読んで、初場所が今から楽しみになりました。

  3. 碧海 より:

    嘉風のヒーローインタビューでの
    「根拠はないけど、横綱に当たられても大丈夫かと思って」
    に実はわかってたやろwと突っ込み入ってしまいました。
    安美錦や千代大龍のハタキと同じくお題目のように
    「前に出ろ」
    とだけいい続ける古い頭の親方衆により単調な相撲により引っかかる力士が増えてるのかと。
    その白鵬インタビューについては日馬富士に関しては
    目撃者として自分は嘘をつかないので、正当に解決してほしい
    という単なる希望を述べただけではないかなあと思います。
    うちわの宴会で殴って怪我させた話なら悪くても実刑にはならないので、解雇はないと個人的には思うし。
    ただ、巡業中に問題発生させた巡業部長の貴乃花親方と日馬富士を管理できてない伊勢ヶ濱親方は処分がいるのかなと思います。

コメントは受け付けていません。