千代桜引退に見る、力士の引退の決断の是非について。

千代桜が大阪場所を以って引退した。
千代桜についてご存知無い方の為に説明すると、
2010年に千代の富士の九重部屋に入門した
大卒エリートで、前相撲からのスタートでありながら
1年余りで十両に昇進した逸材である。
そんなエリートが僅か2年で土俵を去るということ自体
残念極まりないことだが、昨年11月場所に頸髄損傷という
重傷を負ったことが作用しているため、
致し方ないとも言える。
特に、スポーツ選手の引退後の進路問題、
いわゆるセカンドキャリアについては
議論が進んでいる昨今である。
24歳とやり直しの利く今だからこそ
決断を下すということにも大きな意味が有る。


近所のスーパーの地下食品街で大きな体を小さくしながら
肉うどんを作る元力士と思しき大男を見ていると、
ある程度齢を重ねた元力士の受け皿となる就職先がちゃんこ屋か警備、
転落すればその筋の世界しか無いため、
一つの選択肢として賢いと思う。
ましてやスポーツ選手はその世界にしか身を置いていないことから
その世界を離れた時に対応できなかったり、
次の目標を見出しにくいという話もよく聞く。
引退後の野球選手の進路を見ると、それは職業なのか?
と目を疑うような選択をしている人も居るし、
世間知らず故にマルチ商法に手を出して
周囲に迷惑を掛けるという事例も有る。
力士として致命的とも言える怪我を負ったことが
逆に一つの転機になったという考え方も有る。
相撲界ではない一般社会で貢献する
元千代桜の活躍を祈らずには居られない。
だが、これはあくまでも私見なのだが、
正直なところこの早い決断はいち相撲ファンとしては
残念でならない。
千代桜が逸材だからというのも大きな理由だが、
それ以上に残念な理由が有る。
そう。
彼が重傷を負ったからこそ、である。
私は幕下の相撲が好きで、幕内はおろか
十両などよりも熱を挙げて休みの日はBSで観戦しているのだが、
幕下相撲が他のカテゴリと決定的に異なるのは
諦めきれない男達が知恵を絞って、人生最大にして
最後の戦いを挑んでいるところにある。
全ての力士には、それぞれのドラマが有り、
その一つ一つに簡単ではない紆余曲折が存在している。
紆余曲折の中には、力士を辞めるという決断をしても
仕方がないレベルの挫折や苦労も有る。
只の自堕落という事例も有る。
身体を壊したからこそ活路を見出さねばならなかった取り口もあるし、
体格に恵まれているが故に定まってしまった方向性というのも有る。
心が弱い力士は追い込まれると引きが多くなるし、
誠実に前に出ることを訓練された力士は如何なる時も
その強さゆえに最後の最後で星を拾うことも多い。
挫折が有るから、紆余曲折が有るから、
その力士の相撲は魅力的になるのだと私は思う。
彼等の取り口は、彼等の人生を映し出すのだ。
怪我をした千代桜がこの後どのような力士になるのか、
私はそれが楽しみだった。
そう。
吐合や里山が挫折から独自のスタイルを身に付けたように。
だからこそ、残念でならないのである。

千代桜引退に見る、力士の引退の決断の是非について。” に対して1件のコメントがあります。

  1. 豚足山 より:

    貴殿の大相撲への愛情と洞察力、そして文章力には常に敬服しています。そこまで関心が高い大相撲ならば、実際の大相撲界と関わりを持ち、想像でなく事実に基づいて書かれてはいかがでしょうか。「千代桜がどんな力士になるか楽しみだった」とおっしゃっいますが、彼の状況をご存じないから書けることです。一番無念なのは本人に決まっています。相撲どころか一般人として大きな後遺症が残る可能性が大きい中で、懸命に彼はリハビリに取り組んでいるはず。千代桜ではなく、立野さんという一人の人間として。

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