十両昇進後の長期休場を考える。

新番付が発表された。
横綱日馬富士の誕生や、3大関がカド番であること、
常幸龍の新入幕などが話題の中心である。
土俵の中心たる話題としてそれは確かに有る。
私も以前、修羅と化した白鵬と
修羅へと変貌させた日馬富士による
ネクストレベルの戦いへの期待は
日増しに高まっている。
だが、幕下ウォッチャーとしての視点からは、
今回の番付で大変気掛かりなことが有る。
そう。
十両昇進力士の長期休場である。


最近で言うと慶天海、
少し前だと千昇、そして阿夢露。
彼らに共通して言えるのは、
長い幕下での下積みを経て、ようやく掴んだ
十両として迎えた初めての場所で
いきなり大怪我を負ってしまったということである。
新十両で大怪我を負うということ。
2場所(4か月)休場すれば幕下下位、
3場所(半年)休場すれば三段目への転落を意味する。
プロのスポーツ選手として怪我は付きもので、
完治まで4か月以上掛かるということは
実によくあることである。
例えばメジャーリーグの松坂大輔や田沢純一は
肘の腱の移植手術(トミージョン手術)のため
全治までに1年を要しているし、
サッカーの香川真司がアジアカップで骨折した時は
6か月を要した。
0,1トンを超える男達が15日連続でタックルを決め、
土俵際で無理な態勢から投げを打ち合うような
性格の競技である相撲は、相対的に怪我をしやすい。
それ故に怪我を避けるために股割りなどのように
柔軟性を高めるための準備を入念に行うことになる。
それにしても、最近の新十両はこのような怪我に
苛まれることが多いように感じる。
私が幕下をよく観るようになったからなのか、
それとも、最近のトレンドなのかはデータの検証が必要である。
幕下と十両の違いについて当ブログでは
散々語ってきたのだが、
幕下では給料ゼロ、十両は毎月100万円。
幕下は大部屋での生活でプライベートは皆無、
十両は1人部屋が与えられる上に付き人が付く。
誰もが十両を目指し、そして力士としても
人間としても強さを純粋に追い掛ける。
自身の生きてきた集大成として、最大の試練として
十両昇進を賭けた者同士が戦う。
彼らはかつての自分に勝利し、
遂に一人前になった。
だが、その先に在るものは、更なる闇なのである。
想像してほしい。
ようやく一人前になれたと思ったら、
以前の地位よりもかなり下に送還されることを。
そして、今まで積み重ねてきたスタイルを
怪我の影響で放棄することを。
辿りついた先がこれでは、あまりに悲し過ぎる。
それほどまでに、幕下と十両とでは相撲の質が異なる。
怪我の多さはそうした事実を如実に語っているのだろう。
十両で相撲を取るには、身体が足りない。
準備が足りない。
そういう言葉でこの事実を終わらせることは簡単だ。
十両に対応するためには、それ相応のスタイルを
確立することが求められるのだろう。
しかし、私にはそれは出来ない。
彼らが一生を賭けて確立したスタイルを
準備不足・実力不足の一言で片づけることは
私には出来ないのだ。

十両昇進後の長期休場を考える。” に対して4件のコメントがあります。

  1. のん より:

    オフ会 決定しましたか。
    参加したいです。
    日時 お知らせください。

  2. 参謀総長 より:

    ですから、多くの力士は、大怪我をきっかけに、関取の座を死守するために、心ならずも八百長に手を染めるようになるのでしょう。
    八百長を必要悪とまでは言いませんが、相撲には「つきもの」であり、力士にとっては「悪魔のささやき」なのでしょう。

  3. search より:

    これは公傷と絡めて考えないといけない問題なのかなと思います。
    僕は公傷認定基準を厳しくする変わり、認められたら「最大1年(6場所)、公傷期間中は関取は5勝10敗扱い、取的は2勝5敗扱いで番付を編成する」という私案を持っているのですが、やはり出場しないということに対しては理由・事情はなんであれある程度の番付下降はやむを得ないと思います。
    しかし、「新十両」とか「関取としてのキャリアが浅い」層の長期休場がここ最近とにかく目立ちます。ここ3年間で、新十両の場所から3場所までで2場所以上の休場を伴う怪我をした力士というのが、
    妙義龍・千代桜・千代嵐・阿夢露・千昇とおり、おそらく慶天海もそこに加わるでしょう。
    単純計算ですが、年間2人は「そういう目に遭う」と言い換えることも出来ようかと思います。
    そしてこの中で関取復帰を果たしたのは妙義龍のみ。千昇は復帰以降、5勝、6勝と順調に番付を戻しては来ましたが、幕下15枚目まで戻ってきた今場所で真価を問われることとなるでしょう。慶天海は報道レベルだと、1年レベルの休場とのことですから、復帰はおそらく来年の9月場所だったとしても序の口。このまま休み続ければ、来年の九州場所には番付から消えることにもなります。
    十両がたった1年で、ゼロからのやり直しになる。
    他競技と比べると確かにこれは解せない。
    落ちることよりも、戻ることに時間がかかる、ここに懸念を感じる。
    「失地回復」
    これが長期休場者の復帰後の目標になろうとは思う。
    だが、全勝し続けても、陥落と同じ程度の時間を要する。
    落ちることも問題だが、番付を戻す時間が必要というのもなお問題だ。
    その一つの提案が冒頭で述べた公傷制度の見直しである。
    そしてもう1つが番付を戻す時間の短縮の制度である。
    これも私案としてあるのであるが、これについては述べたことはないのだが、ちょっと披露?してみようかと思う。
    まず、野球のメジャーリーグにある「DL制度」のようなものを作る。ただしメジャーのような期間の上限は設けない。ここに入っている期間は、番付から一旦名前が消え、賃金(手当)の支給も行わない(番付の最下段の脇の部分を使ってもよいかもしれない)。但し、復帰は初回休場場所(ただし初回休場場所が十両で翌場所が幕下なら幕下中位格復帰とする)がその段の半数より上にいればその段の中位格。半数より下にいれば最下位格として、その地位で一旦「張出」として復帰させる。
    例えば、幕下45枚目で休場をスタートさせたとすると、翌場所は幕下最下位格。三段目20枚目で休場をスタートさせたとすると三段目50枚目格ということになる。
    ただし、その「復帰場所での成績をそのまま反映させないで翌場所の番付を編成する」というのがこの案のポイントである。6勝以上なら「休場スタート時の地位に復帰」、5勝以下ならその地位からの番付として編成。番付が大きく落とされ、そこで6勝以上できる(敢えて6勝以上にしたのは極端に地位と実力が離れている力士との対戦が組まれるケースが見られるためである)ということは、番付に即した力があると考えられるからである。また、全勝の場合は、全勝扱いで編成すれば「元地位より上になるケース」も出てくるわけだが、これは休場をしており、番付降下を本来より抑えているわけで元地位までの復帰を早くすることが目的なので、元地位より上に上げることは本質ではないという考えからである。
    幕下以下のファンもいるわけだが、幕下以下は客見せという側面は少ない。そして賃金もあってないようであるから、怪我を早期に治させること、また完治させることで力士の芽を摘まないという措置はあって良いだろうと思う。
    怪我をしてしまう、という点については、やはり体が十両の土俵についていけなかった、という要素もなきにしもあらずだとは思う。だが、将来ある力士であれば、そのケアに努めさせるのもまた協会の役割でもあろうかと思うし、こういうサポートがないことが新弟子減少の(要素としては少ないだろうが)一因になっていることも否定できないとは思う。
    特に幕下以下であれば「その時の実力に応じた地位での復帰」が果たせられないものか。
    ここは考える余地があると私も思います。

  4. search より:

    ブログの本質とずれるので省略しましたが、公傷制度の認定基準についてです。
    そもそも公傷が出来た理由は「番付を大きく落とさないようにする」ということでしたが、止めた理由は「公傷の適用基準の曖昧さ」が問題だったように思います。
    wikiの公傷について見ると、武蔵川親方の武双山の公傷不認定の理由がきっかけになっているようですから、番付を下げることに問題があって公傷制度を廃止したわけではない、というのは一目です。
    つまり、止めた事情から考えるに、公傷制度の基準を決めること、ここが必要になってくるのではないかと思います。
    公傷が乱発した理由というのは「全治2ヶ月以上の医師の診断書があれば、ほぼ認められていた」というのがあるかと思います。特定の力士を翻意にしている力士でもいれば、全治期間の水増しなど容易でしょう。だとしたら、必要なのは「医師の限定」です。とはいえ医師まで限定してしまうと、その医師が常にいるとは限りませんから、両国であれば相撲診療所でも良いですし、近所の同愛記念病院でもいいですし、「協会指定病院」を、東京・大阪・名古屋・福岡に設けておくことです。そして、その病院で出された診断書であることを「必須」条件にする。これが必要かと思います。
    また、これもアイディアでしかないですが、半年以上の全治を要する怪我レベルにのみ適用するというのもあります。以前の公傷のシステムでも序盤の怪我は悲惨でした。1勝2敗12休みたいになって、大きく番付を落とし、落とした場所で1場所据え置かれる。これを、もう1場所落として、3場所目から据え置く。その代わり、それ以上は落ちない。なんていうルールにしても良いかと思いますが、公傷廃止の経緯から考えると、どこまで落とすか、どこで留まらせるのか、というのはそう大きな問題ではなく、「基準をどうするのか」というのが考えるべきことなので、ちょっと論点はずれてくるかと思います。
    理想的なのは「元力士の医師」なんていうのがいればいいのですが、なかなかそんなうまい話はない。
    だからこそ、中立的立場でいられる医師(病院)を指定し、その診断書を元に、本場所の土俵上での怪我、というのは公傷認定の大前提でしょうから、それをもとに審判部が判断できるか、ということになろうかと思います。
    また、巡業などでも休場する際は診断書が提出されているはずですから、それがあれば再発かそうでないかも調べることは可能です。もっと露骨にやるのであれば、健康診断等で外科的に悪いところを協会が抑えておく、というのも難しいかも知れませんが、不可能ではないかと思います。
    いずれにせよ、こちらの視点になると、「認定の可否」の話になりますし、医学的見地も必要なので素人が安易に言えることではないのですが、公傷制度の復活を語るときに、「番付昇降の基準」の話と「認定の可否」の話は棲み分けて考えることが必要ですね。

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