谷底。

十両目前にして足踏み。
そして全治半年の重症を負い、
かつてのエリートは序二段まで地位を下げていた。
日に日に番付で細くなる名前。
虫メガネが無ければ読めない、という
人権団体が失神するような
あからさまなヒエラルキーが吐合に
圧倒的現実を突きつける。
そして圧倒的現実は、強者の眩いばかりの光を
コントラストとして映し出す。


そう。
かつて全日本選手権で高校生の身でありながら
学生横綱の吐合を一度ならず
二度までも破った逸材、澤井である。
学生横綱でない、普通の力士は
幕下付け出しではなく、
序の口以下の前相撲からデビューする。
澤井も当然、この下積みを経験していた。
そして、吐合が番付を落としていた正にその時、
幕下6枚目で全勝優勝を決めて、
十両昇進を決めたのである。
給料も出る。
付き人も付く。
15日相撲を取る。
相撲取りにとって一人前の称号。
それが十両である。
そして一人前の証として
本名ではなく、相撲取りらしい名前を名乗ることになる。
ここで澤井は、豪栄道という
暴走族が特攻服に書きそうな名前を選択し、
度肝を抜く。
強者が強者の現実を謳歌するなかで、
弱者と化した吐合には更なる追い打ちが待っていた。
またしても、ケガである。
半年の療養の後に出場した際に、またしてもケガ。
今度は1年を要することになる。
遂に落ちる番付も失い、
あらゆる力士の中で最下層である、
番付外になってしまった。
これは、付け出しデビューの力士では
史上初のことである。
どん底の先には更なる底が待っているとは、
吐合自身も想像していなかっただろう。
この後、吐合はどうなってしまうのか?
続く。

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