2019年夏に一番クレイジーな絵本「たぷの里」を、多くの方に読んでほしい理由。

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大相撲オープンチャットの快進撃

この3週間、私はLINEのオープンチャットの大相撲ルームの立ち上げに携わっている。

「オープンチャット」。

LINEが新たに立ち上げたサービスだ。共通の話題のルームで共通の趣味を持った人たちが匿名でワイワイ盛り上がれるというものだ。他のSNSでも同じようなサービスは既に存在しているが、LINEがこれを始めたことに意味がある。それは、LINEが8000万人ものユーザ数を誇るからだ。

同種のサービスが存在するFacebookは若年層が取り込めていないし、mixiはとうの昔に下火だ。SNSでもInstagramは写真に、Tiktokは動画に特化しているのでそのようなサービスを行う旨味が無い。SNSではないが、5chは情報を選ばねばならないし、何より対立が激しすぎる。

どうやら大相撲のルームに関してはジャンルの性格上年齢層が高く、既に様々なSNSを経験してるために各自が荒れないように先回りして考えることが出来るらしく、また本場所のたびに新たな話題が提供されるという性格上常に話題に事欠かないことも我々の後押しをしているようだ。

ただ、どうやら他のルームではトピックが一巡すると同じことの繰り返しになりがちだったり、ルームの民度の問題が浮上して荒らされてしまったり、ジャンルによっては人数が集まらなかったりと多かれ少なかれ継続的に高いリテラシーを保ちながら有益な情報を提供しつつ多くの方が楽しめるという3つの条件を守り続けることはなかなか難しいことであるらしい。

私とSearch net boxこと横尾氏の運営する私たちの大相撲ルームは、LINEの先行立ち上げのコミュニティの中でも質の高い運営が出来ているようで、オープンチャットの運営サイドや有力ルームの管理者も私たちの運営を注視しながら新たな施策や管理面の良い部分を持ち帰っているような状況である。先行ルームの中でコンテストが行われているが、情報量を競うものであるらしく、現在のところライバルルームとの比較ではオープンチャットそのものの運営に関するルームを除くとダブルスコアを付けているという状況だ。

今とても大事なのは、LINEという誰もが使うアプリのコンテストで大相撲という若年層では特にニッチになりつつあるジャンルが存在感を示せているところにあると私は思う。このままいけばコンテストでもいいところに行けるのではないかという予感もあるし、コミュニティ運営者という発信力の強い方たちに大相撲という爪痕を深く残せているということは何よりも大きい。9月場所からいきなり見てほしいとも思わないし、こういうことはふとしたときにスイッチが入るものだ。爪痕の数が多ければ多いほど、深ければ深いほど、スイッチがオンになる可能性は高まる。今私たちがしているのは、爪を研ぎ、深くえぐることだ。

オープンチャットは設計のまずさから最近ネガティブな話題ばかりが喧伝されているが、大相撲のルームは極めて健全な運営が為されている。公開初日には小中学生が荒らしに入ったが、それだけである。

なお、大相撲オープンチャットに参加を希望される方は、LINEにメンバー登録し、LINEを最新バージョンにアップグレード上で以下のサイトにアクセスいただければと思う。

オープンチャットのURLはこちら。

たぷの里の全容

さて、そんな訳で最近私たちがオープンチャットで1週間近く話題にし続けているトピックがある。
それは、「たぷの里」である。

「たぷの里」というのは藤岡拓太郎さんが書かれた絵本だ。たぷの里という力士が登場するのだが、オープンチャットでとある書店勤務の方が偶然知ったらしくインパクトある絵柄に衝撃を受けて私たちのルームで紹介してくれた。

その表紙が、こちらである。

tapunosato

・・・
何も言うことはあるまい。なぜ彼がこの名を受けたのか、言葉を重ねなくてもお分かりだろう。作者の藤岡さんもおっしゃられているが、彼はたぷの山でもたぷの海でもない。名前を付けるとしたらどう考えても「たぷの里」が一番しっくりくるのである。

ちなみにとある方が候補として「たぷ鵬」という名前も考案されていた。個人的には白鵬とリップの感じが似通っているので言いやすさからして思わず笑ってしまった。早口で言うと白鵬に空耳してしまうところも非常にポイントが高い。だがパロディにするにもも似ても似つかないし、このだるんだるんの体を白鵬になぞらえるのはどうしても無理がある。何よりも恐らく白鵬ファンに怒られてしまうことだろう。だから却下なのである。

このだるんだるんの肉体美。その昔冬木弘道というプロレスラーがその締まりのない体を「マッチョバディ」と評されていたがたぷの里は正しくマッチョバディと言えるだろう。フォルムの性格を四股名に付けられるというとんでもない運命を背負ってしまったたぷの里は基本的に全て同じオチのためにそのマッチョバディをこの絵本では酷使される羽目になる。

何かをしている子供が1コマ目に現れる。
忍び寄るたぷの里。
だるんだるんの体で大銀杏の力士が気配を消して近付く。
そして

「たぷ」

という効果音と共に子供の頭がたぷの里の豊満な腹に包まれる。
この繰り返しだ。
ただ、それだけである。

だが、何ともおかしい。

このフォルム。
腹に包まれる子供。
そして子供の少し悲しげな表情。
毎回このオチ。

たぷの里の振り切ったバカバカしさという凄み

ハッキリ言ってバカバカしい。
いや、バカだ。
これを書いた藤岡さんは確実にバカ野郎だ。
バカという言葉でしか表現できない。
バカでなければ何と表現すれば良いのか?
この世で一番クレイジーだ。
このオチが続くという展開は。

だが、ギャグマンガ家がバカでなくてどうする?思いっきりふざけて、思いっきり笑えばいいじゃないか。逃げ道を作っていい話にしてどうする?細かいことを考えさせず、バカに振り切った作品を絵本という形で上梓された藤岡さんを私は心の底から尊敬する。

これは凄い絵本だ。こんなバカがSNS全盛の日本に存在することが私には信じられない。どこかで人の顔色を窺い、いいねしてほしい。そんな時代にバカに振り切れる奴なんてそうは居ない。私が知って居る限り、多くの人間が中途半端なのが2019年という時代だ。だから、凄いのである。

後で調べて分かったことだが、藤岡拓太郎さんは12万人ものフォロワーを抱える方だ。そりゃあバカをするプロだということだ。いや、この方はプロのバカなのだ。プロのバカになれる藤岡さんは素晴らしいのである。今の時代に国宝のような方だと私は思う。

「たぷの里」の紹介を読み、私は絵本までオンライン注文した。そのうえ、吉祥寺で開催中のたぷの里展にまで足を運んだ。サブカル好きそうなお姉さん達が店内を占拠し、たぷの里の顔ハメパネルで嬉々として写真撮影している。大の大人が、こんなに楽しそうにしている。そして、大相撲オープンチャットから訪れた方も私も含めてあの時間だけで4人いたというから驚きだ。

だが私にはどうしても疑問なことがあった。
どうしてたぷの里に少しもイラつくことが無いか、である。

バカバカしさと真摯さを両立させた、たぷの里

大相撲を題材にギャグをやったとして、いくら振り切っているからと言っても振り切り方次第で勘に触ることもある。むしろ一旦好感を抱いた分だけ裏切られたときの怒りは大きくなるはずだ。これだけふざけたことをしているのに、何故ムカつかないのか。

私は、たぷの里展で気づいた。
それは、藤岡先生が大相撲を愛しているからだ。

凡庸なギャグ漫画家がたぷの里という構想を描き、毎度同じオチで、子供の頭に腹を乗せるというクレイジー極まりない筋書きを描くところまでは百歩譲って出来るかもしれない。だが、恐らく相撲愛が無ければこのギャグ絵本ではどう考えても一つだけやってしまうであろう誘惑がある。

それは、変顔である。

これだけふざけた体型で、ふざけたオチを用意しているのに、毎回たぷ関(とオープンチャットでは呼ばれている)の表情は至ってまじめだ。つぶらな瞳で前だけを見ている。どう見てもこれは、真摯な力士のそれである。腹も設定もふざけている。だが、たぷの里という力士は至ってまじめなのだ。

腹がふざけて見えるのは仕方ないことだ。鍛えても腹や胸がしまらない力士など星の数ほど存在する。明瀬山や輝、碧山などその典型だろう。恐らく藤岡先生もそのあたりから着想を得たのではないかと思う。

だが、彼らは間違いなく相撲も生き方もふざけてなどいない。真摯に相撲に向き合いながらも、体型が面白いことになっているという話だ。まじめに取り組んでいながらも、そのすごさを土俵で体現しながらも、体型がほつれてしまっている。そして廻し姿で限りなく全裸に近く、ちょんまげを結っている。見ようによっては変態だが、まったくそんなことはない。力士というのは凄さもあるが、一歩引いた視点だとバカバカしくも見える。それをギャグとして見せるとこういうことになるのだ。

だが、だからと言って書くものが力士をバカにしてしまうとギャグとして成立しなくなってしまう。真摯な人が一歩引いてみたらバカバカしくも見えるという構図が崩壊してしまうからだ。だからこそ誘惑に勝ってたぷの里を真摯な存在として描きながらシチュエーションと力士という存在のバカバカしさ故に面白く映るような形に落とし込んでいることこそがこの絵本の成し遂げた快挙ではないかと私は思うのである。

丁度たぷの里展に居た、編集部の方とお話しする機会があったので聞いてみると藤岡先生は大相撲が大好きなのだという。そして、今回の絵本の出版に際して怒られるのではないかと不安に感じていたそうなのだ。そういう葛藤の末に、大好きな大相撲を通じてこれだけ振り切りながらも大相撲愛を貫けた。この辺りの本質的な部分を見抜けない方は怒るかもしれないが、受け止め方は人それぞれだ。私は少なくともたぷの里という絵本を読み、怒るという視点が些かナンセンスに感じたのでこれもまた一つの意見として考慮いただけると幸いである。

みんなで買おう、たぷの里。
ちなみに私はTシャツまで購入してしまった。
2019年夏に一番クレイジーな絵本を、楽しもうではないか。

お知らせ

1.10月5日18時より錦糸町のすみだ産業会館でトークライブを開催予定です。詳細決まり次第お伝えいたします。

2.9月中旬にメディア出演予定です。こちらも詳細未定ですので決まり次第TwitterとFacebook、Instagramで告知いたします。

3.Youtube配信が通信品質の不調のため現在調査中です。こちらにつきましても再開のめどが立ち次第SNSで告知いたします。

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