日本的強さと、弱さ。モンゴル的強さと、弱さ。白鵬VS稀勢の里の名勝負と、15日目の2人の惨敗の理由とは?

名古屋場所が終わった。
白鵬の連勝記録。
稀勢の里の綱取り失敗。
蒼国来の土俵復帰。
遠藤の規格外の活躍。
大砂嵐のラマダン。
話題に事欠かない場所だったが、
優勝争いが独走になったことによって
場所自体の興味は薄らいでしまった。
それ故にガッカリの場所だったと総括する人も多い。
個人的には初めての名古屋で相撲を堪能できたことや
現地で相撲好きの方たちと交流を深めたこと、
思いつきで短期間で開催したオフ会も
非常に楽しかったことを含めて、
思い出深い15日間となった。
しかし、やはり今場所一番のトピックと言えば、
白鵬VS稀勢の里の一番である。
前回その内容について触れているが、
触れられなかった部分も有るので、
もう一度振り返っておきたい。


綱取りが無くなり、ノンプレッシャーの状態から
大関横綱を蹴散らして万全の状態の稀勢の里。
そして、連勝記録を伸ばしながらも
脇腹を痛めて満身創痍の白鵬。
強さとは何かという命題に向き合い、
心と技術を徹底的に鍛え続け、弱い自分を乗り越えようと
日本的な相撲道としての強さを
着実に身に付けつつある稀勢の里。
そして、そうした段階を既に乗り越えて
日本的な強さを身に付けたが、衰えと脅威故に
モンゴル的野性に原点回帰した白鵬。
かつてモンゴル的強さVS日本的強さの構図は、
朝青龍VS白鵬で成立していたのだが、
今は白鵬VS稀勢の里なのである。
そしてその対立構造は、名古屋場所では
立ち合いに集約される。
張り手からの、カチ上げ。
これは、行儀が悪いなどというレベルではない。
ヒジは危険過ぎるが故に、総合格闘技ですら禁じ手なのだ。
それを、ジャブ程度ではなく張り手を呼び水に
フルパワーで叩き込む。
これぞ、モンゴル相撲の神髄だ。
あらゆる手を使い、周囲に何を言われようとも
自分は勝ちに徹底的にこだわる。
ましてや、脇腹を痛めた白鵬にとって、
四つの相撲は恐らく力が出せなかったのではないだろうか。
今の状態を考慮すると、脇腹に負担を掛けずに
この最強チャレンジャーを倒すには
恐らくこれしか無かったのではないかと推測する。
立ち合いの優位性を得ることもさることながら、
このワンツーは間違いなく、稀勢の里の心を折りに来ている。
恐怖心を植え付けて、戦意を喪失させる。
それが、白鵬の狙いだったのだ。
だが、稀勢の里は屈しなかった。
日々の鍛錬で培った技術で白鵬を追い詰めたことは勿論、
ここで特筆すべきはこのワンツーに対しても
精神的に屈服しなかったことである。
前半戦で自分の弱さを嫌というほど味わい、
そして向き合った。
その結果が、後半戦の巻き返しなのだ。
精神的な弱さを克服したのは、カチ上げで
屈しなかったことからも読み取れる。
かくして、稀勢の里は白鵬に勝利した。
白鵬が今回敗れたのは、モンゴル的相撲に回帰したからであり、
それ故に真剣に稀勢の里を潰しに掛かった。
だからこそ、この名勝負が生まれた。
興味深いのは、15日目の敗因も
彼らのイデオロギー故ということである。
白鵬は14日目、勝ちにこだわったために、
遂に相撲が取れない状態にまで症状を悪化させてしまった。
そこに是非は問わないが、モンゴル的美学故に
彼は身体を壊してしまったとも言える。
そこには無理をしない、という選択肢も有ったはずだ。
そして、もっと違う相撲の取り方も有ったはずだ。
だが、白鵬はあの相撲を取った。
それ故に15日目は破れてしまった。
そして稀勢の里は、また巡ってきた
綱取りのプレッシャーに潰されてしまった。
もっと何も考えない力士であれば、
特に問題にならなかったのかもしれない。
だが、稀勢の里という力士はプレッシャーを
真正面から受け止めてしまう。
それは、彼が己の弱さに向き合い続けてきたからだ。
自らの弱さに向き合い、
肉体的にも、精神的にも成熟する。
日本的な相撲の美学がそこには有る。
だが、日本的な強さを突き詰めることによって
得られる強さが存在する反面で、
副作用として弱さに屈してしまうことも有る。
モンゴル的な強さ。
日本的な強さ。
そこには異なる強さが有るが、
コインには表が有れば裏も有る。
強さと、弱さ。
二つのコントラストの強烈さを思い知らされた
14日目と15日目だったと言えるわけだ。
白鵬は、まず脇腹を治してほしい。
そして稀勢の里は、更に弱さに向き合ってほしい。
二人の名勝負は、これからも続く。
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日本的強さと、弱さ。モンゴル的強さと、弱さ。白鵬VS稀勢の里の名勝負と、15日目の2人の惨敗の理由とは?” に対して4件のコメントがあります。

  1. 麦太郎 より:

    白鵬の千秋楽の取組を見る限り、相当状態が悪そうですね。
    そこまで至るには様々な思いがあったでしょうが、
    そうまでしてでも稀勢の里を捩じ伏せたいという、
    強い意志が彼をそうさせてしまったのでしょう。
    それは白鵬が稀勢の里を最大の強敵として意識している現れではないかと思います。
    結果、千秋楽はあのような取組となってしまい、名古屋場所を終えたのでしょう。
    一方の稀勢の里はまさかの取組で、
    またしても数多くのファンを落胆させたのではないでしょうか。
    前日の重厚な攻めは見る影もなく、立ち合いこそ互角なれど、
    その後は終始 琴奨菊のペースに合わせた相撲となり、
    持ち前の馬力も棒立ちの高い腰からは生み出されず、
    簡単に土俵を割ってしまいました。
    両者には両者のそれぞれの思いがあります。
    しかし、この両力士は事実上現在の大相撲界の両雄であり、
    二人を意識する大相撲ファンが思い描くシーンは、
    今後展開されるであろう二人の名勝負にあります。
    その大いなる期待に応えるには、白鵬は一日も早く怪我を治し、
    一日でも長く平成の名横綱として君臨し、
    一方の稀勢の里は、迷いを断ち切る精神力を身に着け、
    白鵬戦で魅せた至高の一番を己の物とし、
    ファンの期待する地位へと上り詰めなければなりません。
    いち大相撲ファンとして願わくば、
    千秋楽の結びの一番でどちらが勝っても
    座布団が乱舞するような取組を一回でも多く見たいものです。
    乱文失礼しました。

  2. なの。 より:

    お茶、生け花に始まりついには野球に至るまで
    茶道、華道、野球道として
    ありとあらゆるものに精神性を見出す
    日本人の創りだした国技に相応しい
    相撲道
    を、二人の稀有な存在が邁進しているのだと
    思わされました。

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  4. 相撲万歳 より:

    物事の裏表。
    素人には表しか見えない。
    それ故に、素人が素人たる所以。
    相撲は、興業。
    何をか云わんや。

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