【個性派列伝】Vol1.深尾(明瀬山) 最終回

恵まれた体格とスピードという、
本来であれば武器たる部分に依存することにより
逆に成長を止めている深尾。
現在の相撲では少なくとも通用しない。
今場所の3勝12敗という成績が
それを如実に物語っている。
しかし5回に1度しか勝てない力士が
2回に1度は勝てるようになるには、
一体何をすれば良いのだろうか?


答えは実に単純で、
新たな武器を身に付けるか、それとも
今の武器に磨きを掛けるかのいずれかなのである。
新たな武器であれば、
体格を活かした突き押し相撲を一つの
オプションにするとか、
四つ相撲のバリエーションを増やすという選択肢が思いつく。
そして現在の武器であれば、
体格を増強するか、もしくはスピードを更に上げるか、
といった具合である。
いずれにしても、そこには一朝一夕では
解決できない問題が存在していることは明白である。
そう。
深尾の問題は微調整では解決出来ない類の
根の深さなのだ。
深尾が次のレベルに到達するには、
こうした根源的な問題に向き合わなくてはならない。
だが、私は彼がこの壁を乗り越えるのは
相当難しいのではないか?と考えている。
何故なら、今まで深尾は天から与えられし
才能に依存した相撲しか取っていないからである。
壁に当たったことが無い人間が
生まれて初めて完膚なきまで叩きのめされた。
こうした体験を今までしてきたことのある人間であれば
どうすればよいか?考え、そして対策を
実戦に移すことが出来る。
だが、彼のような人間はそれをしたことが無い。
問題に向き合うことも、解決に向けて
血を流すような努力をすることも、初めてなのである。
こうした試練に打ち勝つことが出来る者だけが
到達できる世界こそ十両なのであり、幕内なのだ。
だが、私は深尾が根源的な問題に
直面するなかで、相反する思いを抱いている。
つまり、深尾は今のままで居てほしいと思っているのだ。
私が深尾に興味を持ったのは、あくまでも
彼が幕内の相撲の上記から外れた存在だったからである。
ブヨブヨで、だらしなくて、それでも素早くて
気が付いたら勝ってしまっている。
そういう弱い人間の相撲こそ面白く、
弱いからこそ、だらしないからこその深尾なのである。
才能があるからこそ、この壁を乗り越えられるのかもしれない。
だが、彼がこの壁を乗り越えた時、深尾はもはや
私の知っている深尾ではなくなっているだろう。
愛すべき深尾を保護するべきであるという思いと、
アスリートとして壁を乗り越えてほしいという思い。
どちらにしても、1ファンの勝手な思いである。
そして、最後に。
現在の深尾を象徴するエピソードを紹介する。
通常、取組の前にお互い四股を踏み、一旦下がる。
そしてタオルを受け取るのだが、
この後で深尾は、ほぼ毎回深尾を象徴する
行為に及ぶのである。
脇を拭く。
顔を拭く。
そして、脇を拭く。

なんというデリカシーの無さ。
だが、そんな深尾が私は大好きなのである。

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