相撲人気が、地域を動かす。地方巡業の注目度が増す中で、災害に遭った丹波が巡業を強行する様を見届けてみた。中編。

地方巡業。
丹波。
縁が無いと思っていた二つは、相撲人気回復の現場を知りたい欲求と
被災地での相撲を目の当たりにしたいという好奇心で結ばれた。
曾根崎警察前で友人に車で拾ってもらった1時間半後に、
春日インターを降りた私達。
山中で低い位置に霧が掛かる様子は、正に秘境である。
インターから降りて、コンビニで買い出しをした後で
丹波巡業を知らせる幟が道中に多く見られるようになった。
会場が近づいてきたことを思わせる。
だが、山中であることも霧がかかっていることも
そして、家が相変わらず疎らであることも変わらない。
丹波はこういう地域なのだということを少しずつ理解する私。
そこで、当然このような想いが去来する。
大丈夫なのか?
この興行は。
何しろここまで人の匂いが無いのだ。
楽しい巡業観戦を、頭の片隅の不安が邪魔してしまい
インターから降りた後で今一つ入り込めない。
しかしカーナビが示す会場までの距離は着々とゼロに近づく。
如何にも、というような地方の体育館が顔を覗かせる。
どうやら今回の会場の「愛育館」のようだ。
スタッフの誘導に従い、車を奥に移動させる。
そこで私達が見たのは、
駐車場に停められた物凄い数の車だった。
開場が8時。
私達が到着したのが7時半。
出足が余りにも早すぎる。
すると、友人が一つのことに気付いた。
車の大部分が、神戸ナンバーだったのだ。
つまり、観客の大部分は地域住民だということである。
念のため終了時も確認したのだが、やはりこの傾向は変わらなかった。
そう。
丹波巡業というのは、秘境で行われる
住民主体のイベントだったのだ。
ショッキングピンクのスタッフジャンパーを身に纏った
スタッフたちは、会場を設営しながら観客にも声を掛ける。
恐らく近所の方なのだろう。
年に一度の祭りを楽しみに、こんなに早く来なくても良いのに
会場前で今か今かとその時を待つ。
誰もが笑顔で、テレビで観たスターに会うために。
そういえば、そうだった。
前売り券は完売だったのだ。
この秘境なのに。
そして、月曜日の開催なのに。
立見席のチケットを入手し、幕下の稽古から目を通す。
地域のお祭りという側面故なのか、
流れる空気は非常に緩やかだ。
その辺を松鳳山や高安が何度も通過する。
寒いとぼやく力士達。
稽古の間は割と土俵を観ていない観客の方達。
この雰囲気によく合っていると思う。
が、稀勢の里が登場した辺りから少しずつ土俵に対する注目が増す。
遠藤が安美錦と豪風に勝てないところや
白鵬が胸を貸す姿に観客たちは釘づけになる。
稽古も終わり、子供たちとの稽古、
下位の取組、初っ切りに甚句といった
巡業ならではのイベントを見せ、会場は大いに盛り上がる。
だが、丹波巡業で一番注目を集めたのは
相撲であって相撲ではなかった。
そしてそれは、大相撲が丹波に来る意味を雄弁に語っていたのである。
続く。
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