学生相撲に見られた、とある変化。大学全入時代の今、学生相撲界は新たな遠藤を生み出せるのか。

全日本学生相撲選手権を観戦しに、両国国技館に足を伸ばした。
本場所前日だが今回は九州場所ということ、
そして丹波巡業に先月行っていること、
更には仕事的な事情も有り、今回は福岡への遠征は控えて
その代わりにという意味合いも込めて学生相撲を観戦してきた。
相撲関係者の多くが福岡に居る今、
そして相撲ファンの興味が福岡に有るにもかかわらず
両国国技館の升席は熱心なファンでかなりの数が埋め尽くされていた。
学生相撲選手権なのに売店が開放されいることや
両国に観光に来たであろう外国人の多くが
本場所と勘違いしてこの大会を観戦し、しかし大いに楽しんでいること、
そして立ち合いの瞬間であっても地鳴りのような
大声援を送る応援団や双方の大学の関係者など。
本場所とは趣の異なる学生相撲ならではの雰囲気に驚き、
そして楽しんだ一日であった。
さて、私がこの大会を観戦した目的は
学生相撲の今を知ることに有った。
最近の幕内の勢力図の中で、学生相撲出身力士は
明確にその地位を築いている。
大学全入時代であり、また世の中の先行きが見えにくい今だからこそ
相撲部の生徒であっても大学進学という選択が増えているのが最近のトレンドだ。
だが、よく言われることだが学生相撲出身の力士は
デビューからの圧倒的な成績によって期待値が高まる一方で
一度壁に当たると中々もう一つ先に進めないという特徴も有る。
十両で定着するパターンと、幕内で三役に届かずに安定するパターン。
三役から大関を狙うことを期待されながら、
こうなってしまうと彼らに対して不満を抱かずには居られない。
正直なところここ10年程度で、学生相撲出身の力士として
当初の期待に応えるだけの能力を発揮したのは三役に定着し、
好調であれば白鵬も喰う妙義龍くらいではないだろうか。
学生相撲という選択肢が一般的になる反面、
当初の期待には必ずしも応えられていない。
モンゴル時代が続く中、その打開を期待されながらも
状況は好転するどころか更なる悪化を招いてさえいる。
しかし、遠藤という希望を生み出したのもまた、最近の学生相撲だ。
そこで私は、実際にこの目で学生相撲の今を知ろうと考えたわけである。
大道選手が中村選手を破り初優勝を決めた後
総武線に揺られながら違いについて考えたところ、
一つのことに気付いた。
そしてそれを共有したところ、私と同じ感想を抱いていたことから
この気付きに確信めいたものを感じた。
昨日の全日本学生相撲選手権。
全体的に相撲が綺麗だったのだ。
学生相撲と言えば真っ先に思い付くのが、特有の立ち合い。
大相撲を見慣れた者にとっては、中々手を付かない上に
細かく動いて相手を出し抜くあの立ち合いには
違和感を通り越して苛立ちを覚えることが有った。
しかし、今回はそうした不満を抱くことが無かったのだ。
スパッと仕切り、そのまま取組が始まる。
不満を覚えなかったことに気付くまでに時間が掛かったが、
違和感が無いことに対して違和感を覚えたため、
その理由を探してみたところ、立ち合いに行き着いた。
学生相撲そのものに対するアレルギーが無くなるのは、
競技としてこれは本当に良いことだと思う。
事実私の周りでも学生相撲のマイナスイメージの
主要因はそこに有ったのだから。
更には大相撲で活躍する上での障壁が一つ解消されるのだとすれば、
あらゆる意味でプラスの変化ではないかと思う。
そういえば、立ち合いもさることながら
張り手やカチ上げ、変化も殆ど無かった。
スパッと仕切り、そのまま取組が始まると感じていたのは、
つまりそういうことだったのである。
競技として、王道とも言える取組に邁進する。
相撲が「相撲道」として清い道を目指すのであれば
今の相撲こそが在るべき姿なのかもしれない。
だがそれが「アマチュア相撲として在るべき姿」だとしたら、
どうだろうか。
今の大相撲に目を向けてみると
優勝記録の更新に手が掛かる大横綱は
勝負どころで立ち合いの駆け引き一発で出し抜いて勝利することも有る。
新世代に目を向けても初顔合わせの大関戦で、
立ち合いで変化して平然と勝利を収める力士が居る。
それも、二人。
更にはこれもまた初顔合わせの横綱戦で
カチ上げを試みる力士も居る。
在るべき相撲を取ることによって大相撲に近づいた部分も有る。
しかし、上位に行けば今の学生相撲では体験出来ない部分も有るのだ。
恐らくそれは、清い変化をすることによって
今の学生相撲が喪失したものなのではないかと思う。
今の大相撲は、ある面で清い道を極めねば上位では通用しない。
しかし同時に、生き馬の目を抜くような狡猾さを持ち合わせていなければ
三役の壁を破ることが難しいのもまた事実だ。
そしてそのボーダーラインと言うのは、学生相撲出身力士が正に今
直面している壁でもある。
だとすると学生相撲のこの変化は、果たしてプラスだったのだろうか。
今の私にはどちらとも言えない。
ただもしこの変化が、私の推測の通りの理由であれば
その中にこそ打開策が有るのではないかと思う。
そう。
プロアマ交流である。
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