幕下での回り道は、回り道ではない。幕下で確かな強さを勝ち得た、新十両:輝(かがやき)の活躍に期待する。

達(たつ)改め輝(かがやき)が素晴らしい相撲を取っている。
近頃では珍しい中卒叩き上げとして角界入りし、17歳で幕下昇進。
193センチの恵まれ過ぎるほど恵まれた体躯から繰り出される
スケールの大きな相撲は誰もが将来を嘱望するものだった。
それは親方衆も例外ではなく、月刊「相撲」誌で恒例の
期待の若手に関する対談では常に上位に彼の名は有った。
そして彼は、平成6年生まれ以降の力士として初めて
関取に昇進することになったわけである。
だが今の活躍が重い意味を持つのは、
輝が期待に違わぬ能力を見せつけているからではない。
ご存知の方も多いと思うが、輝はこれまで
潜在能力を高く評価されてはきたが、
相撲内容に関しては誰もが不満を抱いている力士だった。
脇が甘く、先手を取られると体勢を崩されてしまう。
また腰が非常に高く、突き押しに力が伝わらない上に
潜られて体を起こされてしまう。
大型力士に有りがちな課題ではあるのだが、
輝については能力を高く評価されているだけに
このありきたりな課題を中々克服できないことに
私を含めて皆落胆し続けた。
幕下というのは面白いもので、何かが足りない力士の
集まりでありながら内容が良くなければ勝利は中々掴めない。
体が足りない者は、足りないなりに相手を崩す術を身に付ける。
技術が足りない者は、技術を補うために思い切りの良い相撲を取る。
或る者は弱点に徹底的に向き合い、弱点を克服する。
また或る者は弱点を逆用し、弱さを力に変える。
それぞれの力士にそれぞれの形が有り、
誰もが明日を掴むために全力を尽くす。
こうした試行錯誤を繰り返しながら、のし上がる者と
幕下で生き延びる者、そして淘汰される者とに別れる。
足りない限りは、抜け出せない。
足りない者達の集まりではあるが、
生き延びることは容易ではない。
それが幕下という世界なのである。
17歳で幕下に昇進した輝は、20歳で関取の地位を掴んだ。
これを遅いと捉える人も多いと思う。私だってそうだ。
特に、脇の甘さや腰の高さは「持っている」力士の
ある意味怠慢のような弱さとも捉えられるので、
この弱点を克服できないことは、努力不足・けいこ不足という
観方をされることも多い。
幕下10枚目から頭打ちになり、1年経ち、
彼はこの弱点を克服できず、精彩を欠いた。
期待が大きいだけに、本人も周囲も、そして
彼に期待しているファンも、誰もが辛かったことだろう。
だからこそ、地道な努力を積み重ねて遂にこの課題に対して
一つの解を見出したことの意味は大きい。
本来であれば年少記録を狙えるような位置に居た輝は、
幕下では回り道をしたのかもしれない。
ここでよく「この苦労が後に活きるから、無駄じゃない」と
この苦労に寄り添う発言をする方も居るが、
相撲というのは面白いもので、実はこの言葉が
実践的な意味を持つことも多いのだ。
というのも、幕下の上位で苦労した力士が
その上の十両を数場所で通過するケースも多いのである。
例えば、勢。
例えば、千代丸。
何かが足りずに幕下生活が長くなった力士が、
一つのきっかけを掴むことで開花する。
また、本人が悪いわけではないのだが、対照的なパターンとして
十両昇進後直ぐに大きな怪我をしてしまう事例も多い。
怪我を経て自分に向き合う強さも有るし、
幕下で弱さに向き合うことで育む強さも有る。
苦労して得た強さが心を打つのだとすると、
回り道こそが力士を特別なものにするのではないかと私は思う。
大器でありながら、回り道を経て今の活躍を勝ち取った輝。
これからの活躍を期待したい。
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