白鵬の審判部批判問題が沈静化せぬ中、浮上する「平幕優勝」の可能性。その最右翼が遠藤である3つの理由とは?

大阪場所まで、もう5日である。
本来長くて短い1ヵ月半のはずなのだが、今場所は少し事情が異なる。そう。白鵬である。
審判部批判問題については散々物議を醸し、優勝記録を塗り替えた大横綱に報道陣は同じ質問を浴びせる。白鵬はSmaStationでの謝罪で全てを終わりにしたいのだが、バラエティ番組で、何に対する謝罪なのか不明確な謝罪でもあったことから、報道陣のそうした対応はある程度止むを得ないところだろう。
SmaStationでの謝罪以降1か月あまり、白鵬は審判部批判問題に晒され続けた。時には質問をシャットアウトし、時には声を荒げた。どちらの白鵬が出てきても相撲のトップニュースに、特にニュースの無い日はスポーツニュースでもトップという扱いである。相撲界を支え続けた恩人の豹変は、それほどまでに衝撃だったのだ。
この話題は恐らく、白鵬が次に大きなニュースを提供するまで続くことだろう。そしてその大きなニュースというのは、大阪場所の優勝という訳ではない。何故なら、白鵬にとって優勝は日常だからだ。
相撲内容が少しでも荒れれば、審判部批判と結び付けて語られることだろう。そしてこうした声は、白鵬を更に荒ませることだろう。つまり大阪場所は、白鵬史上初めてヒールで迎える場所と表現出来るのである。何をやっても悪い意味で取られることは、ストレスであることは間違いない。
ここ1年土俵の主役は白鵬だったが、話題の主役は稀勢の里であり鶴竜であり、そして逸ノ城であった。だが今場所は期せずして白鵬が話題の主役に躍り出たわけである。
白鵬を中心に語る非常に珍しい大阪場所なのだが、気になるのはやはり誰が白鵬の対抗馬たり得るのか、である。旭天鵬優勝、日馬富士横綱昇進、稀勢の里の成長という出来事は、白鵬の衰えや対抗馬の出現という角度で語られた。楽しい優勝争いを期待するために、誠に不謹慎ではあるのだが上記の動きを「白鵬1強時代の終焉」として捉える方も多かったが、こうした出来事を経て白鵬は更に強さに磨きを掛けた。
批判が大勢を占める中、白鵬は強さを見せ付けるのか。この異常な状況で、そんなことは可能なのだろうか。後の先を捨てて荒い相撲にシフトした白鵬は、確かに初場所で無類の強さを見せ付けた。だが、荒い相撲は相手を牛耳る凄味が有ることも事実だが、非常に危ない場面も多かったことも事実である。
誰か白鵬を止められるのか。
そしてそれは一体誰なのか。
これはあくまでも可能性の話である。願望とか、そういう次元の話ではない。あくまでも大阪場所を観る上でのポイントとして捉えて頂ければと思う。
日馬富士はどうだろうか。
絶好調であれば白鵬が相手でも手が付けられない力士だったのだが、ここ1年は好不調の波が無い代わりに好調でも取りこぼしが増えてきた。「敵は自分自身」という闘争心タイプの特徴として、加齢と共に良くも悪くも安定することこそ優勝争いから日馬富士を遠ざけているように思える。
鶴竜はどうだろうか。
鶴竜は元々不利な体勢からの逆転で星をもぎ取ることが上手い力士だったが、綱取りからの増量によって有利に相撲を進められるようになった反面で、引くとかなりの確率で負けるように、増量によってリカバリーが利きにくい力士になったことも事実である。
稀勢の里は今までの課題を解決できずに居るし、2大関の焦点は勝ち越しだ。照ノ富士も逸ノ城も碧山も、良い日と悪い日の差が歴然としている。上位総当たり圏内の力士の中で横綱大関を全て倒せる力士は今のところ見当たらない。
これだけの騒動になったことから、白鵬は恐らく普段よりは失敗が増えることだろう。優勝ラインも下がるのではないかと思う。12~13勝出来そうな力士がかろうじで両横綱という状況である。となると、やはり白鵬なのだろうか。
いや、こういう時に浮上するのが、忘れてはいけない平幕優勝の可能性である。ラインが下がれば下がるほど、下位での大勝ちによって優勝戦線に残る可能性も高まる。そして、少ない上位との対戦で勝ちをもぎ取れれば一躍大チャンスが巡ってくるのである。
今の下位の中でそれが可能なのは、私は遠藤ではないかと思う。
まず、遠藤は下位に取りこぼさない力士だということである。
遠藤の特徴として力に差が有る場合安定して星を伸ばす点が挙げられる。負けない相撲を取れることは非常に重要なことで、それはかつての栃ノ心や臥牙丸に見られた特徴である。
十両昇進後、遠藤は14勝1敗という成績を挙げることでその適性を見せた。更には九州場所では増量後に相撲が安定しない中、終盤下位力士を相手に8連勝を果たした。
そして横綱大関を相手に勝てることだ。
当ブログで何度か話していることだが、上位を相手に勝てる力士は最初の対戦でも可能性を見せるものだが適性が無ければ何年経っても、何回対戦しても結果が出ないものである。逆に最近の宝富士や勢の成長の方がレアケースと言えるのではないかと思う。故に下位の力士が横綱を相手に0-20ということも多いのである。
だが遠藤は既に鶴竜にも稀勢の里にも、そして一番苦手だった琴奨菊を相手にも勝利している。勝った力士の共通項が無いことも特徴で、つまり相性での勝利ではないということだ。上位を相手に勝てる素養は、既に開花しているのである。
そして最後に、白鵬に勝つ可能性である。
これは今場所特に遠藤が付け入る隙が有るのではないかと考えている。つまり白鵬は、遠藤に対して意識過剰になるからだ。
初場所でも白鵬は、遠藤を相手に非常に感情的な取口を見せた。そもそも荒い取り口が多かった15日間だったのだが、一番荒れていたのは遠藤戦だったことは間違いない。張り手にカチ上げ。それ自体はそれほど珍しいことではないのだが、あれほど激しく行く白鵬はそれほど記憶に無い。唯一有るとすると、それは稀勢の里に対してである。
私は稀勢の里が白鵬に勝てるのは、実は白鵬が意識過剰になっているからだと考えている。感情的な白鵬は普段と取り口が異なるので、そこに隙が生まれる。張り差しもカチ上げも、強烈になればなるほど脇ががら空きになる。稀勢の里に敗れた取組を振り返ると、その多くが普段着の相撲でないのである。
初場所の遠藤は、非常に惜しいところまで行った。白鵬が打撃で作った隙を捉えかけた。だが、白鵬が一瞬早かったのと隙に付け込み切れなかったために、遠藤は敗れた。
勿論遠藤にも課題は有る。突く相撲は横綱を相手にも五分で渡り合えるものの、突き切るには至らないし、そこから得意の四つに持ち込む形が確立できていないので善戦止まりという内容も数番有った。あれを勝ち切れれば可能性は見えてくるのだが、今のところそれは分からない。
だがこの1年で遠藤フィーバーは一段落し、幕内での相撲にも慣れてきた。遠藤の対応力で初顔を勝利し、相手が遠藤を研究して負けが込み、そして今、取口を覚えられた中で更なる対応力を見せている。初めて上位に昇進した時の6勝9敗と、初場所の6勝9敗とでは内容が大きく異なるのである。
遠藤パネルに、永谷園のCM。昨今の相撲ブームにおいて遠藤人気は一つの契機だった。だが、不思議なことに遠藤にハマるファンはそれほど多くない。つまり相撲ブームとは遠藤の出現に端を発して、相撲にポジティブな雰囲気が作られたことに起因しているのである。
しかし考えてみると、このブームが遠藤ブームではなかったことがここに来て大きく作用している。かつて「キックの鬼」沢村忠は、キックボクサーでありながら毎週試合に出続けなくてはならなかった。沢村忠が去った後、キックボクシングの人気は凋落の一途を辿った。
遠藤は時代に消費されなかったからこそ、今が有る。勝ち越しと負け越しを繰り返しながら地道に力を付けてきた成果を見せる最大のチャンスが、北陸新幹線開業と時同じというのは
何と出来た話ではないだろうかと思う。
白鵬の一つ一つに注目しながら、今だからこそ遠藤に注目する。
私の大阪場所の愉しみは、遠藤なのである。
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