静岡新聞社から届いた、巡業記事執筆のオファー。幕下相撲の魅力を、一般読者の方に届けてみよう。

7月23日。
名古屋場所の最中に、1通のメールが届いた。
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静岡県浜松市で10月に大相撲の巡業が行われます。静岡新聞社はその際、大相撲、巡業の魅力を紹介する特集号を出します。ニシオ様に、巡業を楽しむためのコツ、大相撲の魅力を原稿にまとめていただきたいと考えているのですが、可能でしょうか?
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過去にファッション誌でサブカルチャーに関するコラムを担当していたので、記事を書くこと自体初めてではない。テレビ出演オファーや取材協力の依頼については過去にも有ったのだが、相撲の原稿の依頼となるとこれは事件だ。
私はどこかの出版社に所属している訳でもないし、当ブログとそれを通じたSNSでの活動でしか接点を持つことは無い。相撲を通じた知り合い経由であれば話は分かるのだが、今回の方は全くの初対面だ。まずそのことに驚く。
他にも本職のライターの方、相撲について書かれている方など探せばいくらでもいるはずだ。本を出版されている方も居れば、雑誌に寄稿されている方も居る。そういう中で、ほぼアマチュアに等しい私を選んでくださった。次にそこに驚く。
そういう少し非現実的な状況の中で声を掛けてくださっているということを正面から受け止めると、多少なりとも私の記事を評価してくださっているということではないかと思い始める。この上ない歓びであると同時に、今の状況を照らし合わせると「思い上がってはいけない」と諌める心理が働く。
新聞記事という非日常が到来したことによって、過大評価と過小評価の間で揺れ動く私。「ニヤニヤ」と「キリッ」を往来し、どちらにも安定しない。傍から見ているとかなりの変態である。当ブログの読者の方であればご存知だと思うが、変なのは4年前から一貫しているので大した問題ではない。
閑話休題。
とはいえ、新聞記事を書くということが初めてなので、どういう段取りで始めればいいか分からない。適当にテーマ決めからということで、一つ考えてみる。新聞を読んでくださる方に巡業の魅力ということで私が語れることと言えば…そうだ!丹波巡業の時の話が有った。
相撲は単なるスポーツではなく、地域に根差した文化であり、八百万の神にささげる神事としての側面も有る。被災地で四股の文化的な意味を共有し、横綱土俵入りで2500人が「よいしょー!」と掛け声を挙げた美しさは、相撲に興味が無い方でも思うところが有るだろう。
よし、これだ。
静岡新聞の方に主旨を提案すべく、メールを返信した。だが担当の方からの返答は、実に意外なものだった。
「関取を狙う幕下力士の朝稽古の価値を教えていただきたいです」
それは非常にニッチな世界であり、私がこれまで少しずつ語ってきた世界だ。確実に観ていて熱くなるし、幕内には無い魅力に満ち満ちているとは思う。だが、同時に伝わり辛い部分が有ることも事実だ。
相撲内容は拙いところも有る。
身体もまだ出来ていない力士も居る。
当然、幕内を見慣れていると物足りなさも有る。
だからこそ、その楽しみ方に関する解説が必要なのだ。そういう部分のことを私は「知られざる世界」としてきた。勿論、私がそうして語ってきた部分が伝わったことは嬉しいが、新聞記事としてこれを書くのは大丈夫なのか。1500字という制約の中で、それが出来るのだろうか。ましてや私は、ある程度相撲のリテラシーが有る方を対象にここまで書いてきた人間なのだ。ここでもまた、過大評価と過小評価に揺れる。
果たしてこの軸で記事を書いていいものか。
今ならまだ間に合う。
丹波の方で推した方が通じやすいのではないか。
ここで私は、一つのことを思い出した。BSの相撲放送で繰り返し言われている「最近は入りが早いですね」という言葉だ。
幕内の相撲や力士が伝わるのは、ある意味当たり前のことだ。人気力士が一流のパフォーマンスを見せるのだ。顧客が見たいものと見せるものが一致している以上、盛り上がらないはずがない。
だが、ほぼ誰もその魅力を語っていなかった幕下の相撲が、今では多くの人が観るようになっている。様々な企画で入りを早くする工夫をしていることも一つの要因ではあると思うが、観方も四股名も取口も分からない力士同士の相撲が、これまでに無い注目を集めている。
超人ではなく、一人間としてのリアリティショー。強さと弱さの狭間で、時に強さを、時に弱さを見せるリアル。そういうものが、世の中的にも注目を集めているのだから、相撲ファンのみならず、ひょっとしたら伝わるのではないか。
私は今まで、自分が面白いと思ってきた幕下相撲について「とはいえ伝わらないものだ」という諦めを抱いている部分も有った。相撲自体が伝わりにくいこのご時世に、更に幕下という概念を重ねるのは混乱を招くだけではないかと感じていたからだ。
どこかで信じきれないことが、過大評価と過小評価の間で揺れる自分を産み出していた。そんな気がするのだ。
だがもう、そういうのはいいのではないか。書きたいように、好きなことを書いてしまえばいい。最大限の努力はする。その上でダメなら仕方が無いではないか。
私は腹を括った。
腹を括って、1500字の中に想いを込めた。
10月10日。静岡新聞の巡業特別号に、私の記事が掲載される。静岡西部の方は、是非ご覧頂ければと思う。これは「幕下相撲の知られざる世界」の、世の中に対する一つの挑戦である。
◇お知らせ◇
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◇お知らせ2◇
浜松巡業については、現地での観戦記を後日記事としてアップいたします。

静岡新聞社から届いた、巡業記事執筆のオファー。幕下相撲の魅力を、一般読者の方に届けてみよう。” に対して2件のコメントがあります。

  1. ununi より:

    最近の相撲ブームはいい傾向ですね!

  2. nihiljapk より:

    >ununiさん
    そうですね。
    いままで相撲に興味を抱いてこなかった方が興味を抱き、
    未来を支えるファンになりつつある。
    これって本当に大事なことだと思います。
    不勉強な方とか、マナーの問題とかも有りますが、
    それはこれからだと思いますしね。

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