「最近刊行された相撲雑誌はつまらない」のか。最近の刊行物のコンセプトと3タイプの相撲ファンとの相関関係を考える。

最近、こんな話をよく耳にする。
「ニシオさん!最近相撲関係の本っていっぱい出てますけど、みんなつまんないんですよ。」
その理由を尋ねてみると、返ってくる答えは人それぞれだ。
記事の内容を既に知っている。
ミーハー過ぎる。
確かに聞いてみるとなるほど、と思うことも有る。ある程度薄味の仕上げだということ、取り上げる力士が限定的だということ、既視感が有るということ。この辺りは最近の相撲関連の刊行物全体に言えることなので、満足しない方も出て来てしまう。
先に述べた特徴は相撲ビギナーでも入りやすくするための工夫であり、また飛びつきやすいトピックでもあるので、致し方ない部分だと思う。相撲がこれだけ大きな注目を集めるようになったからこそ、本を出版するという企画が通るのだ。彼らに刺さるものを提示するのは当たり前のことなのである。
ただ、そうは言っても店頭に相撲関連の書籍が出てくるとつい期待してしまう。紙のメディアに対する期待は、裏切られても裏切られても抱いてしまうのである。恐らくそれは過去の事件などの影響で出版が激減したことと、その反動によるところが大きいと思うのだが、目を通した挙句こうした文句を口にしてしまう結果を招いているのだと思う。
更には、既存の刊行物に対しても満足していないという現状がそうした想いを加速させる。
私からすると『相撲ファン』のように新規ファンをターゲットにしつつ既存ファンにも楽しめる絶妙なラインを攻めているか否かは分かる。切り口に対する工夫やトピックの真新しさで、受け止め方が大きく変わるからだ。そういう意味で、新規刊行物に対して満足する方も多く居るとも思っている。
しかしながら満足しない方が居るのには理由が有る。一口に相撲ファンと言っても、大きく分けて3種類に別れるからである。
まず一つが「力士と近づきたい」タイプのファンだ。
出待ちをしたり、サインを貰ったり、写真を一緒に撮ったり。力士と接することが楽しい方は、インタビューでもオフショット的な質問に対して喰い付きが良い。代表的な有名人で言えば横野レイコさん、最近であれば山根千佳さんがこれに該当する。
二つ目が「相撲をちょっと斜めから観たい」タイプのファンだ。
力士のお尻や塩の撒き方、タオルの拭き方のようなルーティン、体型など本来注目を集めるところでは無いところに着眼して楽しむのが特徴である。代表的な有名人で言えばやくみつるさん、最近であれば能町みね子さんがこれに該当する。
そして三つめが「相撲そのものをディープに語りたい」タイプのファンだ。
取組内容や力士のストーリー、ドキュメンタリーやスポーツジャーナリズムの観点から相撲を楽しみ、自身の意見を共有するところに楽しさを覚えることが特徴である。代表的な有名人で言えばデーモン閣下がこれに該当する。
なお3種類の視点は横断可能なものなので、一つ目と二つ目、二つ目と三つ目を両方楽しんでいる方も居る。やくさんがデーモン閣下と対談しているのはそういうことである。
そしてここからが重要なのだが、最近の刊行物は「力士と近づきたい」方と「斜めから観たい」という需要にはある程度応えているのだが、ドキュメンタリーやスポーツジャーナリズムという論点はほぼ含まれていないのである。
そう。
不満を述べている方の多くは「相撲をディープに語りたい」タイプの方なのだ。
野球で例えると分かりやすいと思うのだが、彼らは相撲雑誌に「Number」を求めているのだが、最近の刊行物の多くが「プロ野球ai」的なものだということである。ジャーナリズムを求めているのに出てきたのがアイドル雑誌では、満足するはずもない。
ややこしいのが「プロ野球ai」は一目見ただけでアイドル雑誌だということが分かるのだが、相撲雑誌は一度手に取り、全て読まないとコンセプトが見えないということである。だからこそそういう事故が起きてしまう。
相撲ファンにも様々なファンが居るように、相撲雑誌にも様々なコンセプトが有る。だからこそ我々は自分に合った刊行物を選ぶ必要が有るのだ。とはいえ、このような観点が定着するには時間が掛かる。不満を募らせる方はこれからも増えるのではないかと思う。
余談だが相撲ファンの方が集うオフ会に関しても、この3タイプのカラーが非常に重要な意味を持つ。ディープに語りたいタイプの方が仲間を求めて足を運んだところ、実際は力士と近づきたいタイプの方が集まる会だった、などという事故もよく聞いている。私が主催する際は当然語りたいタイプの方が集うので、そこに暑苦しさを覚える方はご遠慮いただいた方が懸命ではないかと思う。
もし私の声が届くのであれば、出来ることなら「相撲をディープに語りたい」タイプの方に刺さるコラムや企画を盛り込んでほしい。雑誌全体のコンセプト、根幹はビギナー向けでいい。しかし、一つでもそういうファンの方に対して向き合えるコーナーが有れば彼らもまた救われるはずなのだ。
ちなみに今私が一番読みたいのは、「Number」の相撲特集である。そういう切り口の雑誌を誰か企画してはくれないだろうか。
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