拝啓 鶴竜 力三郎 様

拝啓 鶴竜 力三郎 様
寒さが染み入る季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。既に九州にいらっしゃるかと思いますが、博多と言えばこの季節になるとアラ鍋ですね。ちなみにアラ鍋と聞いて、間違えて魚のアラの鍋を作ってしまうというケースも有るそうですのでそちらが出てきた時はどうかご容赦頂ければと思います。…え?「それは『美味しんぼ』のエピソードだから大丈夫」?これは大変失礼しました。
さておき。
遅くなりましたが、9月場所の優勝おめでとうございます。2横綱不在、残されたのが横綱ただ一人という状況の中で、その重圧は私の想像を遥かに超えるそれだったのではないかと思います。只の単独横綱というだけでなく、昇進後の優勝が無いことを揶揄する声も有りました。そしてそれを昇進のための条件が変わったことと結び付けて批判する声も有りました。
更には、照ノ富士関の成長も有りました。同郷で、次世代を担う若手力士の台頭。白鵬関との取組でも引けを取らない、新世代の旗手に対する期待の高揚。新進気鋭の若手が勢いの助けを借りて、そのまま横綱まで突っ走るケースは非常に多いです。そういう姿を照ノ富士関に重ねるのは自然なことです。振り返れば横綱にとって究極のチャンスとピンチが同居する場所こそが、9月場所だったのではないかと思います。
思えば横綱も、大関昇進と横綱昇進時は千載一遇のチャンスを一発でモノにしてきた方でした。「チャンスをモノにする」。言うのは簡単ですが、こうしたチャンスはそうそう訪れるものではありません。明らかにその重圧に自分を見失い、本来のパフォーマンスからかけ離れた相撲を取り、その姿に失望させられてきました。
考えてみると相撲に限らず、格下相手でもワールドカップ予選だとチグハグが動きになる日本代表や金メダル候補と言われながらもメダルすら取れずに帰国するオリンピックの日本代表選手、そういう姿を見続けてきました。これは日本人特有の病理なのかもしれません。
だからこそ、このような機会で優勝を勝ち取れる横綱は、本当に素晴らしいと思うのです。
自分が問われる時に、自分を見失わない。究極のプレッシャーに向き合い、壁を乗り越える。そこには意志の力が求められると思います。そして、その意志というのは自分を支える相撲哲学によって支えられるものです。
横綱はこう仰られていました。
「人に認められたくて相撲を取っていない。自分の相撲人生を生きています。」
そうした強い意志によって導かれた、ある意味必然の優勝だったのではないかと思います。ただ、この道は険しい獣道です。稀勢の里関とのあの一番。二度の変化には失望の声も有りました。
相撲は格闘技である以前に、エンターテイメントです。相撲が1200年という歴史を持ち、その中で300年間興行として成立してきたのは分かりやすいからです。外に出るか体が地面に触れたら勝ちという、言葉を話せない子供でも外国人でも分かるシンプルなルールの中で大男が体をぶつけ合う豪快さこそが相撲の大きな魅力です。
変化は喰らう方が悪い。私もそう思います。しかし、エンターテイメントとして観た時に、変化による決着は退屈です。皆が期待を寄せる大一番の決着が全て変化だったとしたら、大相撲の歴史はここまで長くなかったことだと思います。
私達は相撲内容から、その力士の生き様を見ています。勝ち負けはもちろん大事です。横綱にとって強く在ることは大前提です。しかし、勝ち負けを超えたところにこそ横綱の、いや、相撲が今まで続いてきた意味が有ります。そういう在るべき姿を我々は「品格」という漠然とした言葉で表しています。
過去の横綱だって「品格」を示せたかと言えば、そうではありません。結局「品格」というのは、理想像から離れた横綱像を体現した時に正論として持ち出される便利な言葉に過ぎないと思います。
ですから「品格」という言葉にはあまり意味は無く、土俵上の振る舞いが共感できるか否か。そういうシンプルな話です。横綱が共感を得られないとしたら、一体誰が相撲を観るのか。むしろそういう力士を打倒するところにカタルシスを求める方も現れるのではないかと思います。
共感を拒むという道は、険しき道です。目の前の力士だけでなく、観衆とも闘わねばならないのですから。そういう力士のことを、世間ではヒールと呼びます。頼れるものは自分だけ。強さで黙らせるという道だけが残されています。
今場所は両横綱も復帰されます。更に道は険しくなりますが、一つの生き方を貫く凄味を見せて欲しいと思います。
敬具
追伸
初日は残念でした。白状すると、嘉風関の素晴らしい相撲に大きな声を挙げている自分が居ました。
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拝啓 鶴竜 力三郎 様” に対して2件のコメントがあります。

  1. お~るどる~き~ より:

    御自身の事を慰められているんですね。
    良くも悪くも貴殿のブログは影響力がありますから。
    周囲の心情はもう少し考慮すべきだったと思います。
    そして新たなファン層には正しい道を示して欲しいと思います。
    お節介とは思いますが、まずは白鵬、鶴竜に謝意を伝えてみたらいかがでしょうか?

  2. お~るどる~き~ より:

    謝ってもらう必要はありませんよ。
    貴殿のブログには「横綱に対する敬意」が見当たらないという事がより明確になりましたね。
    周囲もそう認識されたと思います。
    大横綱に対する意見は今後も注視させていただきます。
    それにしても昨日の白鵬の猫だましはあっぱれですね!
    それだけ余裕があり、他の力士とは次元が違うと思いますが。

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