【データ検証】今の嘉風は大関にふさわしい力士か?

ここ1年で成長した力士は数多く存在するが、一番の驚きは嘉風であることは間違いない。
33歳にして最高位の関脇にまで昇進し、横綱大関を相手に健闘を続けている。周囲が体力の限界で土俵を去る中、これほどの高齢で自己最高位を更新することは大相撲の世界では異例だ。実力を保つのも難しいのに大きく力を伸ばしているのだから、この活躍には驚きしかない。
そして嘉風本人も最近では目標を大関と公言するようになった。1年前では考え難いことだが、今の嘉風がこの目標を口にして笑うものはもう居ないだろう。毎場所のように横綱大関を倒し、勝ち越しを重ねているのだから。
場所前に「次の大関は誰か?」というアンケートを取ったところ、実に40%もの方が嘉風の名を出すという結果になった。1年前の照ノ富士のような、大関獲り真っ只中という力士が居ないことも影響しているのだが、しかしこの結果はファンの目が変わってきたことを如実に表していると思う。
だが、ここで考えて欲しい。
今の嘉風は大関にふさわしいのだろうか?
まず、大関になるには昇進基準を満たさねばならない。そして、大関になってからは陥落せずに地位を保たねばならない。大関として活躍するにはこの二つの条件を満たす必要が有る。
言い換えると、大関になるには瞬間最大風速が求められ、保つには平均風速が求められるのである。
昇進基準に関しては、3場所で33勝というひとつのラインが有る。1場所11勝を3回続ける。これがどれだけ困難かは過去の大関獲りを見れば分かると思うが、9月場所に前頭筆頭で11勝を挙げたことと、5月場所から3場所連続で2桁勝利を挙げたことを考慮すると大関獲りに必要な瞬間最大風速を備えた力士であると言える。
しかもこれは少し前の、過去の実績であれば割り引く必要が有るが、嘉風のそれはここ1年のものだ。この頃のコンディションになれば、3場所で33勝というラインも見えてくる。一つ勢いに乗れば、大関昇進については大いに有るのではないかと思う。
問題は、むしろその後のことだ。勢いに乗っている時に勝てるのと、勢いの力を借りずに勝てるのはまた別の話である。
以前戦後のの最高位:大関の平均成績を調べた際に勝率6割、すなわち9勝6敗というデータが出てきて大いに驚いたことが有る。9勝6敗の大関のことを「クンロク大関」という言葉で揶揄する人も居るが、そもそも上位総当たりで
9勝6敗という成績を挙げることはかなり難しいことである。
その時の記事はこちら。
そして、その時に採取したデータを出すと、最高位:大関の地位別の勝率は大まかにこんなところである。
・対平幕: 76%
・対小結・関脇:66%
・対大関: 53%
・対横綱: 24%
これを現在の嘉風の地位に当て込むと、このような期待値になる。
・対平幕: 4勝1敗
・対小結・関脇:2勝1敗
・対大関: 2勝2敗
・対横綱: 1勝2敗
つまり、平均的な大関になるには毎場所1横綱2大関を倒し続けねばならない。更に、関脇以下の力士が相手ならば少なくとも6勝2敗で回らねばならない。しかもこの成績を叩きだしても、世間はクンロクと揶揄するのである。
嘉風は九州場所、初場所と3役で8勝7敗という成績だった。素晴らしい内容だったと思う。しかし、これでは大関としては足りないのだ。
嘉風は今、大関を目指すと公言している。だが、嘉風が目指す大関というのはこういう地位なのである。たまに横綱大関に勝てば喜んでもらえるのは、あくまでも個性派力士の話だ。大関を獲るための爆発力を備えてはいるが、平均的な大関としては勢いの力を借りても少し足りないのが、今の嘉風なのである。
序盤で2勝4敗と少し星が上がらないが、この地位でのこの成績を「星が上がらない」と評する力士に成れたのだからその先が有っても驚かないし、そうなって欲しいと願っている。
残り9日間の嘉風に、期待したい。
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