稀勢の里は、神懸った一番で場所の流れを引き寄せた。

立合で素早く起こされる。
相手の方が速く、起きた時の距離で相撲を取るので、攻撃を受け続ける。そして、その勢いのままに攻め込まれる。15日間の中で、稀勢の里が必ずやってしまうパターンだ。そして今日、その流れを鶴竜が引き寄せた。
体が起きる稀勢の里。
一気に終わらせようと猛烈に攻め込む鶴竜。
土俵際まで追い込まれる稀勢の里。
もう、このまま取組は終わるのか。
だが、稀勢の里はここで終わらなかった。
徳俵の少し前で、円を使い始めたのだ。
一気に行けない鶴竜。
しかし、もう行くしかない。
勢いの力を借りるが、ここで体勢が入れ替わる。
あとは決めるだけだ。
遂に稀勢の里は、10連勝でここまで来た。
考えてみると横綱以外が優勝する時、ターニングポイントとなる一番を勝つこともさることながら、殆どの事例で有るのが、本来負けている相撲を拾うことだ。
昨日の一番で、稀勢の里は完全に流れを引き寄せた。だが、ここまでの稀勢の里は良くも悪くも自分の相撲を取れてきていた。自分と同じ、もしくは自分よりも強い相手を倒すためには、そういう神懸った一番が必要になる。
そしてそういう一番が、遂にここで出た。
最高の流れで明日の白鵬戦を迎えることになった。
今日の相手が白鵬だったら、同じことが出来ただろうか。出来たかもしれない。だが、白鵬はあの土俵際で更に厳しい攻めを見せたことだろう。
そう。
全ての流れが稀勢の里に来ているのだ。
しかし、その流れは単に転がり込んできたものではない。序盤で自分の相撲を取り、星を落とすことなく中日を迎え、琴奨菊戦で覚悟を見せ、鶴竜を逆転で破る。稀勢の里は、この流れを引き寄せたのである。
強さに怖さを加えた白鵬は、本当に強い。
だがこの強い白鵬に挑む準備は、遂に今日整った。
11日目。
決戦は、明日だ。
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