高砂部屋と、平塚。夏合宿の持つ意味とは?後編

少し前の話になったが、高砂部屋の夏合宿について。
前編はこちら。
平塚での夏合宿は連続20年を超えた。平塚市民は序二段の力士も三段目の力士も知っている。昨今の相撲ブームとは異なる、地域に根付いた相撲がそこにはあった。
相撲は今、地域から消えつつある。かつて相撲が盛んだった青森や北海道でさえ関取が減り、小学生の相撲大会でも上位に来ることはほとんど無い。そういう中、この20年で平塚にとって相撲は文化になった。そして、高砂部屋は文化になった。
高砂部屋の20年は、隆盛と転落と、そして再生という起伏に富んだものだった。全てを経験し、今の高砂部屋を迎える平塚がある。私はその光景を最初に目撃したのは2015年のことだが、彼らの相撲を見る目は落ち着いたものだ。そういう相撲が存在していることが、私は嬉しかった。
そして、一つ気づいたがあった。この夏合宿は、それほど厳しいものではなかったのだ。
若い力士はかわいがりを受けている。始まるのかと思いきや、これからというところで終わる。観たかったような観たくなかったような気がしたが、そういうものなのか。
夏合宿、それも場所の直前だ。充実した稽古をする上で、この地で激しい稽古をするのであれば分かる。合宿と聞くとどうしても「地獄の」という接頭句で語られるものだが、そういうわけでもない。
平塚としては一つの文化であることは間違いない。だが、力士としては平塚である必然性はどこにあるのだろうか。部屋で行う以上に充実した稽古が出来るから、というわけでないことは稽古見学したことで理解できたと考えている。
だとすると、稽古以外の理由があるのではないか。そこで私は、高砂部屋の後援会の方に尋ねてみた。すると、面白い答えが返ってきた。
「いい意味でほどほどだからだと思います。」
確かに稽古がほどほどであることは、見学からも分かった。だが、それ以外の部分におけるほどほどというのはどういうことなのか。彼の言うほどほどを深掘りしたいと思い、更に尋ねた。
「稽古が終わった後で地域の方達と触れ合うイベントが有ったり、夜には花火を観に行ったり、相撲ではない部分での楽しみが有るんです。ほどほどに稽古して、ほどほどに息を抜く。そういうバランスが有るから、平塚の夏合宿は続いているんだと思います。」
言われてみると、その通りだ。
苦しいばかりの稽古が待ち構えていては、単なる地獄の風物詩だ。そんなことに20年間誰が耐えられるだろうか。苦しいことも有るが、楽しいことも有る。そういう合宿、いや、イベントとしての意味合いが無ければ力士としても継続出来ないだろう。
恐らく苦しい稽古を夏に行っている部屋も有ったのではないかと思う。だが、20年間続いている部屋は高砂部屋だけだ。つまり、苦しいだけでは合宿は成立しないということである。苦しさに耐えるだけが相撲ではない。強くなるだけが相撲でもない。
そこにほどほどが有るからこそ、平塚で相撲は文化になった。そして、稽古やそれ以外のイベント的な意味合いもさることながら地域の方達もまた、高砂部屋の力士に対してほどほどを保っていたのである。
稽古が終わると、関取を取り囲んでサイン会が始まる。写真を撮って欲しい方も列を作る。特に、朝弁慶は地元の出身なので、彼はもはやローカルヒーローだ。
だが、そういうヒーローを取り囲みながらも、平塚の方達は節度をわきまえているのだ。ブームになればなるほど、ルールを逸脱した行為が行われる。国技館の出待ちエリアにコーンが建てられたのは、そういう理由からだ。
しかし平塚の方達には、一見さんのリスク排除のための対策は一切不要だ。それは、誰もがこのほどほどを心得ているからに他ならない。
力士も、地域も、ほどほどだからこそ、この合宿は生き永らえている。熱狂的だからではない。文化として地に足を付けていることの重みが有るからこそほどほどという距離感が生み出されてきたわけである。
ほどほどの距離感で、だからこそ地域の期待感を覚える。
高砂部屋と平塚は、幸せな関係なのである。
充実した稽古の中で、1年前は初の関取を目指していた朝弁慶は気がつくと関取としてのキャリアを積み重ねていた。これもまた、高砂部屋と平塚の歴史の一部だ。
しかし朝弁慶のキャリアは曲がり角を迎えていることを、この時点では誰も知らなかった。
続く。
◇おしらせ◇
11月27日に東京近郊で相撲観戦会を開催します。今回は特に縛りは設けませんので、参加をご希望の方は詳細を案内いたしますのでプロフィール欄を参照の上、メールいただけますようお願いします。
◇おしらせ2◇
11月23日に神楽坂で朝活講師を務めます。九州に行かない方は、是非ご参加下さい。最強力士は誰か。皆様とざっくばらんにお話出来れば、と思います。まずは以下のパスをご確認の上、参加をご希望の方はその旨ご回答ください。
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