絶滅寸前の相撲界の松坂世代。闘え、大雷童。そして、俺達。

松坂世代。
1980年から1981年の早生まれの年代だ。
今年度で37歳になるこの世代は、優秀な野球選手を多数輩出したことでも知られている。最近では彼らの現在を追う特集がNumberで掲載されるほど、その影響力は計り知れない。
1998年のセンバツ、そして甲子園。そして高卒1年目からの松坂大輔大活躍。和田毅や村田修一、杉内俊哉に藤川球児。他にも挙げればキリが無い。この時代の野球は続々と台頭する松坂世代に牽引されてきたことは間違いない。
かく言う私も松坂世代だ。野球について語っても、この話題であれば一晩ではとても足りない。多田野や上重、新垣や石堂の話もしたいところだが、今回は割愛する。
さて、そこで思い出してほしいのが、相撲に於ける松坂世代についてである。
実はこの世代、数年前から既に関取が居ないのだ。
少し上の世代でも、1976年世代であれば若の里。1974年世代であれば旭天鵬。息の長い活躍をし、レジェンドという言葉ですら称された世代が少し上には存在している。
そして1978年世代であれば安美錦。1979年世代であれば豪風が居る。現役で館内を沸かせる力士が居る。
少し下に目を向けると、1981年世代なら嘉風と里山、1982年世代なら北太樹、1983年世代は琴奨菊が居る。
全盛期と比べても遜色のない相撲を取る実力者も居れば、全盛期からは少し落ちるが味の有る取口の力士がズラリと並んでいる。
恐らくこれは、近年のトレーニング技術の向上などによるものだろう。力士人生は過去と比較すると本人の努力次第で太く長く出来る時代なのである。
それだけに、相撲界の松坂世代のこの状況は意外なのである。
では、過去にどのような力士が居たのか振り返る。代表的な力士は何と言っても朝青龍だ。そして、アマチュア時代に朝青龍をも凌駕する実力を誇っていたのが普天王だ。更には東欧に目を向ければ黒海が居た。
中々面白い力士は居るのだが、お気づきの通り日本人力士が実に手薄だ。相撲人気が低迷した時期から熱心なファンになった私にとっては、正直なところ印象的な力士は普天王くらいしか思いつかないし、思い出せない。
朝青龍は2010年に、普天王は2011年、そして黒海は2012年に引退している。相撲界における松坂世代の代表格は、5年前には皆姿を消している。黒海が引退した時に、私はそのことに気付いた。
そしてその時思った。今現役の力士で一体誰が松坂世代に該当するのか。ふと考えると私にとって気になり続けていた力士が一人だけいた。
それが、大雷童だ。
高田川部屋を支え続ける大ベテラン。関取経験が6場所ある彼は、10年ほど前に幕下に落ちてからも長く幕下上位で闘い続けてきた。
小さい体で前に出る相撲。吐合を応援している頃に出来れば対戦したくないという観点で見ていたので、裏を返すと良い力士だったということだ。
幕下に落ちてから4年は十両が見える位置に居続けていた。幕下シングルから、10枚目付近をキープし続けることは容易なことではない。
調子を落とせば簡単に大きく後退するのが幕下というものだ。だが大雷童は残り続けた。しかし見方を変えるとそれだけの実力が有りながらも、十両復帰は叶わなかったとも言えるだろう。
それだけ良い相撲を取れば、どこかでチャンスは生まれる。大雷童にもチャンスは有った。幕下転落後、幕下筆頭と2枚目、そして3枚目を1度ずつ経験している。
だが、復帰はできなかった。2枚目の時には3勝3敗で迎えた取組で敗れた。3枚目では4連勝しながらも3連敗を喫した。
その後は10枚目から30枚目付近を上下しながら時折幕下シングルに上るも、そこで負け越していた。
昨年に3場所連続休場し、番付は遂に序二段になった。実に20年ぶりの序二段だ。だが、それでも大雷童は辞めなかった。復帰後は順調に幕下まで戻り、今場所は三段目の13枚目での相撲となる。
私は同年代という繋がりが無ければ大雷童に興味を抱くことは無かったと思う。一人の良い力士として、吐合にとっての脅威という観点でしか彼を見ることは無かったと思う。
もう松坂世代は若くない。次々と引退し、別の道を模索している。
自分に見切りを付ける決断をすることは、想像以上に辛いことだ。だが、見切りを付けずに自分の限界を突き付けられ続けることもまた、辛いことだ。
36歳にもなると、力士でなくても自分で自分の限界が分かる。自分に自分で見切りを付けることになる。何物でもない、自分の凡庸さという限界にどう向き合うか。
必死になりたくても、必死になれない。必死にならずにここまで生きてきたから、必死になるという発想すら持てない。何かが変わらなければ、凡庸な将来しか無い。
そういう俺達の世代が限界という壁に直面する中で、大雷童もまた闘っている。
この歳だからこそ、同年代としての大雷童に何かを重ね、何かを感じている。繋がりは同年代というだけだ。だが、同年代なのだ。それは特別なことなのだ。
限界に抗い、何かが出来る姿が見たい。何かを成し遂げるために抗う姿だけでもいい。抗うことすら放棄してしまいそうな36歳は、闘う大雷童が見たいのだ。
大雷童よ、闘え。
松坂世代よ、闘え。
私も、闘おう。
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