横綱大関が取りこぼす構造とは?
日馬富士が好調である。
12連勝で迎える終盤戦、あとは白鵬と大関2力士を
残すばかりである。
先場所の優勝を経て一皮むけたせいか、
今場所の日馬富士の取り口には安定感が有り、
唯一危なかったのも11日目の物言いのみ
という充実ぶりだ。
ここまで素晴らしい相撲を取るに至った
日馬富士ではあるが、それでも
終盤戦まで全勝を続けるのは至難の業である。
いや、むしろ、日馬富士に近い実力を持った
大関陣でさえ平幕相手が主の序盤戦でさえ
大抵の場合1度は敗れてしまう。
私達は平幕と大関横綱が対戦した時
大関横綱が敗れることを「取りこぼし」として表現する。
優勝のボーダーラインが通常低くても13勝、
高い場合は15勝であることから、
この取りこぼしこそが優勝に向けて
致命傷になることを意味している。
ましてや今は6大関に加えて歴代最強クラスの横綱:白鵬が
君臨している時代である。
同程度の実力を持った力士を相手にする機会が多い分
星を伸ばすのは至難の業である。
それ故、「取りこぼし」をしないことこそが
優勝争いや横綱昇進を目指す上で避けては通れない道である。
優位に立つ力を持ちながら敗れるとすると、
考えられる理由は2つ。
1つは、平幕が実力差を埋めるだけの
素晴らしい相撲を取った場合。
そしてもう1つが、ミスをした場合である。
平幕が実力以上に素晴らしい相撲を取る場合は
仕方が無い。これは、上回られてしまう訳だから
防ぎようが無いのだ。
そもそもこうしたケースは、相性が極端に悪い場合や
平幕側が優勝を狙えるほどに充実している時に限るため、
それほど問題視することも無い。
問題は、ミスをどう防ぐか、ということである。
大相撲は、15日のトータルで成績が決定する。
大関を目指す力士、大関、横綱。
ここに該当しない力士については
勝ち越しが目標になるため、ミスの防止というよりは
実力のベースアップがその処方箋に成るわけだが、
優勝を目指すにはそれだけでは足りない。
マックスのパフォーマンスを一瞬でも叩き出せば良い
そういう競技であればミスについてはそこまで
考慮する必要が無い。
例えば、野球のホームランバッター。
例えば、ハンマー投げ。
例えば、サッカーのストライカー。
彼らは普段どれだけミスをしても、
1日で1度のチャンスをモノにすればヒーローに成れる。
だが、相撲の世界はこうはいかない。
常に高いパフォーマンスを示すアベレージ型
でなければならないのだ。
大相撲の力士に近しい素養を持った他競技選手。
例えば、野球のピッチャー。
例えば、ボウリング選手。
例えば、サッカーのディフェンダー。
衰退はしたがかつてのK-1で例えるならば、
マックス型はジェロムレバンナやバダハリであり、
アベレージ型はセームシュルトやアーネストホーストが
ここに該当する。
ワンマッチであればマックス型は輝くが、
1日3試合もこなすとなるとアベレージ型でなければ
絶対に勝てない。
勝った時の印象が鮮烈で且つ序盤の黒星がまだ解消されない
稀勢の里はつまりマックス型であり、
60連勝するような安定感を誇る白鵬はアベレージ型なのである。
ファンとしてはマックス型の爆発的な
パフォーマンスに惹かれることから、
稀勢の里の大勢を願うファンはもの凄い数存在している。
だが、言い方を変えるとマックス型である限り
15日間の成績を競う現在の興行形態では
アベレージ型にトータルの成績で勝つことは難しいのである。
個人的にはマックス型が輝く興行形態も見てみたい。
だが、アベレージ型への移行という
血の滲み出るような努力の経過を見届けられる
15日間の興行は、やはり面白いのである。