我々は、白鵬を批判してはならないのだろうか。
稀勢の里に左手を宛がい、押し出された。
日馬富士相手に、見どころなく完敗した。
これは14日目と15日目の出来事である。
優勝争いがクライマックスを迎えるところで、その一角を成していた白鵬は精彩を欠き、脱落した。琴奨菊は素晴らしかった。彼の頑張りで大相撲ファンは全て救われた。だが忘れてはならないのは、この優勝は白鵬のそうした内容も一因が有るということだ。
白鵬の終盤戦での失速は、2場所連続のことだ。
九州場所に関して言えば3連敗だ。
その中には手負いの照ノ富士さえ含まれていた。
本来ならば激しく批判されるべき内容だ。同じ失速を稀勢の里がしたら、何を言われるか考えるだけでも恐ろしい。恐らく相撲内容から私生活、人格に至るまで否定されることだろう。それはいつものことである。
復活優勝と日本出身力士10年ぶりの優勝という美しき光景がその部分を弱めた感は有るが、高め合いながら優勝を争ったとしたら、更にその美しさには磨きが掛かったのではないかと思う。残念ながらそれは、白鵬の失速によってスポイルされたわけだ。
誤解されているかもしれないが、私が白鵬に怒るのは強いのに終盤で強さを見せられていないからだ。もし12勝で何を文句を言っているのだとおっしゃる方がいるのであれば、白鵬を甘く見ていると言わざるを得ない。それまでの相撲で圧倒的なのに、何故それが出来ないのか?ということを言いたいのである。
私は白鵬に強く在って欲しいと考えている。その上で、次世代を切り開く力士に白鵬を超えて欲しい。この時代に白鵬が居ることは、又と無いチャンスなのだ。白鵬が居て、強さを見せるからこそのドラマが有る。だが強さを見せぬまま白鵬の失速という形で物語が終焉を迎える。そこに怒っているのである。
そして、土俵態度に関する様々な議論についても同じ理由で怒っている。かつては出来たのに、何故今は出来ないのか?白鵬の価値は、あの時完璧な横綱像を体現したことではないか。そして何故その行いを正当化するのだろうか。私の目にはあの日の白鵬が残っている。
私は怒っている。だが怒っている反面で、怒り切れない自分も居る。失速に何か事情が有るのではないか?と考えてしまうのだ。
考えてみると白鵬が何かが起きた時に最初はマイナスの感情を抱くのだが、一旦そこでその感情を私はキープする。そして、他に何か事情が無いのかをつい考えてしまう。そういう癖がここ数年で付いた気がしてならない。他の力士であれば、例えば前述の稀勢の里であれば全くそのようなことは考えない。
それ自体は間違いではないと思う。様々な面を考えたうえで、自分の意見を決定する。何事もそうあるべきだと私は考えている。だが、こと白鵬に関しては単純に物言いが出来ない状況になってきているように思う。それはここまでの圧倒的な成績と、そして外国人ということが大きく作用している。
それを言っては恩人に対して失礼なのではないか?それは差別的な意識が有るのではないか?事の是非という次元だけでなく、過去の経緯や民族的な問題までもが脳裏を過る。白鵬というのはもう、単純な存在ではないのだ。
だが、それでいいのだろうか。
今の白鵬がかつての白鵬と異なると言えば、私はいつものように袋叩きに遭う。違うということさえも主張させてもらえない。そう言うことを誰もが恐れている。新聞も、雑誌も、皆恐れている。
だが誰が何と言おうと、相撲がどん底の頃の白鵬と今の白鵬はもはや別人だ。何故なら、当時の白鵬はそのようなことはしていないのだから。
今の白鵬はあまりにも多くのことが起き過ぎる。そしてそうした問題について、上記の事情から自制を求める人が大変多いのである。ここまでの功績や人格面が有るのに、失礼ではないのか?そういう論調で喰って掛かる方さえ居る。
しかし私はそういう方に言いたい。
だから、ここまでこじれているんですよ。
と。
あくまでも批評するべきは、その事柄だ。人格であってはならない。だが批判をされた時、人格を否定されたような気分になる。自分が敬愛する存在に対する批判は、ついそのような思考になりがちだ。
広く意見が交わされることで、行動や言動に緊張感が生まれる。物議を醸すような行動にも自制が入る。しかしそれを、実績や人格から不問にしたらどうなるか。その行いは常態化するのである。それが今の実情だ。
多様な批評は人を救うと私は思う。勿論私は誰かを助けたくて記事を書いている訳ではない。だがもしそういう行動をする前に別の観点が有ることに思いが及んだならば、これほど嬉しいことは無いと思う。何が正しいかは分からない。私は私の見解を述べるしかない。それが絶対的な真理で有るはずがない。それでも、一つの観方を示すことにはなる。
事実ダメ押しについて批判された際は、一定期間抑止力が入ることを私は知っている。返り血を浴びることになろうとも、そこは勇気を出して言わねばならないことなのだ。
白鵬は、もっとオープンに語られるべき存在だと私は思うのである。
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