横綱大関が序盤に敗れるのは「だらしない」のか。「中日給金率」で歴代横綱を比較し、検証してみた。
5日目で白鵬、稀勢の里に土がついた。
綱取りという声も掛かる稀勢の里が敗れ、更には全勝が逸ノ城のみという状況の中、荒れる名古屋場所という声も多く聞かれている。
序盤に横綱が敗れる。
綱取りの掛かった大関が敗れる。
横綱大関で全勝が居ない。
確かに最近ではあまり観ない光景だと思う。そして、序盤に星を落とすと「だらしない」と言われる。勝ち続ける白鵬を引き合いに出し、敗れた横綱大関に厳しい声が挙がることも多い。
だが、少し待ってほしい。
果たして本当に序盤で星を落とす彼らは「だらしない」のだろうか。実は白鵬が傑出し過ぎているということは無いのだろうか。
当ブログでは以前、「最近の大関は弱いのか」という検証を行ったところ、大関のクンロクは過去数十年で成績として平均点であり、更には大関のランキングを数値的な指標から検証したところ上位の大半が近年の大関であることも判明している。
そこで私は一つ検証してみることにした。
そう。
序盤に星を落とす率を指標化してみようと考えたのである。
序盤に星を落とすことが「だらしない」とされる大きな理由は、平幕に敗れるからだ。力の差が有る力士に敗れることを「だらしない」と捉えるのであれば、序盤の対戦、すなわち中日までの取りこぼし率を検証すれば良い訳だ。
そしてこれを、白鵬と過去の名横綱で比較してみようと思う。ただし全盛期が続く白鵬と、既に引退している彼らの横綱としての全成績を比較すると引退前の衰えている成績も勘案する必要が有るため、引退力士については全盛期の成績を抽出する。
もしこれで過去の名横綱と白鵬がそこまで変わらないのであれば、もう少し別の力士との比較をすることで「だらしない」か否かを確認すればよい。というわけで白鵬が例外なのか否かの検証作業をしてみようと思う。
対象は全盛期の大鵬、北の湖、千代の富士、貴乃花、そして朝青龍。果たして彼らの中日給金率はいかなるものなのだろうか。数字を出すと、意外な事実が明らかになった。
図:1
歴代名横綱の全盛期に於ける中日給金率
大変興味深い数字が出てきた。名横綱と言えど、全盛期と言えど、中日までに2回に1回は敗れるものだということが判明した。優勝回数歴代2位と3位の二横綱でも40%台。北の湖は33%、貴乃花に至っては20%なので、毎場所のように「だらしない」訳である。
だが、私の記憶に有る千代の富士以降の横綱が負けた時、「だらしない」と感じたことは無い。つまり、半分程度序盤に敗れてもそれはある程度許容されてきたということだ。
では白鵬はどうだろうか。
これを検証してみると、以下の結果となった。
図:2
白鵬の横綱昇進後の中日給金率
一人だけ、突出しているのである。
72%ということは、4回に3回は中日給金。体感では序盤に星を落とす方が意外、序盤は全勝が当たり前という成績である。
そして、他の横綱や大関は全盛期の大横綱よりは成績が劣るため、序盤で既に差が付いてしまう。序盤で敗れる力士に「だらしない」と感じていたのは、白鵬の存在がハードルを上げていたためだったのだ。
結局「だらしない」というのは、単に白鵬の独走を許しているからではないだろうか。そして、優勝争いの興味が薄らいだことに対して彼らをスケープゴートに使っているだけではないだろうか。
序盤に星を落とすことは、ある程度は致しかないことだ。しかしそれでも星を落とさない白鵬が居るからこそ、他の力士は頭が痛いのである。
相撲というのは本来、10回の対戦で10回勝てるようなものではない。立合いが合わないことや、廻しを巡る攻防、そして詰めの土俵際など、不確定要素が大変多いのが大相撲という競技だ。
白鵬は、優勝争いの質を変えた。序盤負けない白鵬が居るからこそ、序盤は落としてはならない。それは最低条件だ。そして更には、相星で追走しながら終盤に直接対決を制する必要が有る。
格下を相手に落とせないプレッシャーと、絶対王者の持つプレッシャー。目の前の力士だけでなく、成績的なアドバンテージは心理的にも圧力を掛ける。
だからこそ、72%ではなく、28%の方が出てきた今場所はチャンスであり、これが本来の優勝争いの在り方なのである。
28%という幸運に恵まれ、まだ優勝の行方は分からない。
「だらしない」訳ではない力士達の奮起に期待したい。
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7月16日に朝活のイベントに講師として参加します。題して「現役相撲ライターが”類人猿診断”で紐解く 『世界一エキサイティングな”相撲”の授業』」です。既に満員となっておりキャンセル待ち状態ですが、ご興味がございましたら一度ご相談ください。
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