悪目立ちする白鵬を、残念に思う。
日馬富士の騒動があった。
稀勢の里の不振もあった。
そして、優勝争いは盛り上がらない。
酷い話題が多い場所だ。どん底の頃から熱心に観始めた立場としては、これほど相撲を観ていてしんどい想いをした場所は記憶にない。
日馬富士の騒動が起きた時、せめて稀勢の里には復活してほしいと願った。だが、土俵に戻った稀勢の里はただ無惨だった。稀勢の里が苦しいのであれば、せめて優勝争いに手に汗を握りたかった。秋場所のような自滅ではなく、次代が見えるような、希望の場所になることを願った。だが、白鵬に比肩する者は誰も現れなかった。
中盤戦で既に致命的な差がつき、三賞に興味の無い私は幕下に目を向けるという、幕内でテーマを見出せない時特有の行動に出ようと考えていた。だが、今場所の土俵は、一つの救いがあった。
相撲が、楽しかったのだ。
次の時代はまだ分からないが、誰もが必死で相撲を取っている。優勝争いからは脱落しているが、星の潰し合いではあるが、それでも可能性を見出すこともできる。
逸ノ城も。
貴景勝も。
北勝富士も。
皆、素晴らしかった。
八百長騒動の頃、あれだけ相撲が人気を失ったのは単に不祥事だけが原因ではなかった。そう。肝心の相撲がつまらなかったのである。少なくとも私の興味は幕下だけだった。
今は、違う。
外野で騒動が起きていても、看板力士が不振でも、土俵に目をやれば相撲に救われる。相撲の素晴らしさに出会える。そして、相撲の素晴らしさを再認識できる。それが、不祥事を経て培った大相撲の強さだ。
相撲を観る気力を失い、少し距離を置いていても、テレビの前に戻れば相撲が楽しい。たとえ相撲界の体質が問われても、事件が起きても、私の中で相撲が揺るがないのは、相撲が楽しいという拠り所があったからだ。
それだけに、今日の白鵬は残念だった。
白鵬は普段素晴らしい振る舞いをしていても、圧倒的な相撲を取っても、不思議なほど話題になりにくい。その素晴らしさに慣れてしまったのだと思う。
アスリートとして圧倒的であることは、慣れてしまうのが最大の不幸だ。39回優勝することの凄さは、分かっているようでよく分からない。現役である間は、評価に客観性を持たせることは難しい。
その代わりに現役選手の評価軸となるのは、主観であり、感情論だ。だからこそ、感情を味方につけるような人間ドラマが求められることになる。人間ドラマがいやが応にも出来てしまう海外挑戦が出来る競技は強いのである。
白鵬の不幸は、勝つことでドラマが作られにくいところであり、不祥事を起こすことによって悪いドラマがたやすく出来てしまうことだと思う。言い換えると、白鵬は悪目立ちしてしまう力士なのである。
39回の優勝よりも、記憶に残っているのは朝青龍とのいざこざであり、栃煌山に見せた猫だましであり、「子供でも分かる」という審判部批判であり、優勝が決まる一番で見せた変化である。
そして今日もまた、勝負が決した後で1分立ち尽くすという騒動を起こしてしまった。今場所の白鵬を語るキーワードは圧倒的な強さではなく、またしてもこのような形になってしまった。
日馬富士の一件が有ったからこそ、白鵬は悪目立ちする自分を意識し、良く振る舞わねばならなかった。そしてブレーンも、こういう時期だからこそ白鵬を抑えねばならなかった。相撲にネガティブな話題が取り上げられやすいからこそ、相撲の力を見せつけて世間を見返さねばならなかった。
だが、白鵬は最悪のタイミングで悪目立ちしてしまった。
相撲ファンとしてこれ以上の痛恨事は無い。
ただでさえ渦中に居たとされているからこそ、せめて土俵上では素晴らしい白鵬であってほしかった。騒動の後処理は、場所後で良かったのだ。騒動が土俵でちらつこうとも勝ち続けることで白鵬の価値を知らしめることが出来たのだ。
土俵で騒動を起こしては、全てが台無しなのだ。白鵬は、騒動を伝えるメディアの中ではお騒がせ力士に成り下がってしまうからだ。また悪いエピソードが加わってしまったことよりも、この時期に自らの株を下げてしまったタイミングの悪さが、悔しかった。
悪目立ちする白鵬を、残念に思う。
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なお、参加ご希望の方は以下の予約サイトよりご登録下さい。
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“悪目立ちする白鵬を、残念に思う。” に対して3件のコメントがあります。
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現在1敗白鵬、2敗で北勝富士・隠岐の海の八角部屋の力士が続くが、白鵬は今日やらかしたとしても、すぐに修正するだろう。ズルズル連敗する横綱ではない。だから39回も優勝したんだろうが、まあ張り手とカチ上げは全開だろう。
怖いのは千秋楽の優勝力士インタビューだ。この横綱、忖度とか無縁だ。
余計なことを言って炎上する光景しか予想できない。この時期、当たり障りのない、面白くないインタビューで十分なのだが「悪目立ち」しそうだ。
モンゴル人力士同士の私的な集まりでモンゴル人力士がモンゴル人力士を殴ったという、
八百長が疑われる意味でも傷害的な意味でもモンゴル人力士への風当たりが強くなるような事件の現場にいた当事者が、
こういう品位を問われることをしていては、日本人力士万歳主義者に美味しい叩き餌を与えるようなもので、ろくなことがありません。
以前、白鵬がNHK辺りのインタビュー番組で、目指すは名横綱双葉山の「後の先」(相手が、どう立とうが、浮けて立って勝つ)であると言っていたことを記憶します。
11日目の取組後の白鵬の取った行動は、凡そ、それからほど遠いものでした。
これも双葉山の名言「我、未だ木鶏足りえず」を地で行ったということでしょうか?
言葉は、誰でも自由に使えますが、大事なのは実行力だということを再認識させられた取組でした。