川崎在住の私が初めて九州場所に行ってみた。前編
メニューを見て、注文する。
携帯に溜まったメッセージを見ながら、返信を作る。もう一度眺めてみると内容が普通なので、捻りの効いた表現にしたいと考え、どうしたものかと推敲を始めたところでラーメンが出てきた。
注文から2分。
そうだ、ここは博多だった。
天神の屋台で細麺をすすりながら、私はこの日のことを思い出していた。
思えば私は九州場所に足を運んだことが無かった。
国技館に初めて行ったのが3年前。相撲ファンとしては新参者の私である。ここまで3度、九州場所という選択肢は有ったのだが、生来の出不精が顔を覗かせて、テレビでいいやと見送り続けてきた経緯が有る。
川崎から名古屋なら2時間、大阪なら3時間だ。東京場所は4カ月に1度有る。加えて巡業やらイベントやら、東京に居れば相撲をロスすることは無いのである。
仕事に勤しんでいれば、案外時間が過ぎるのは早い。社会活動に力を注ぎながら、2カ月に1度相撲を観る。仕事やその他のプライベートが有るからこそ、相撲の与える非日常が貴重なのではないかと思う。
そんなわけで九州場所というのは私にとって、現地に行かずとも凌げる15日間だったのである。
ただ、「幕下評論家」「横綱審議委員会審議委員」「吐合啓蒙家」に加えて「相撲ライター」という肩書きを拝借したことも有り、九州行きを検討することになった。
そして更に、相撲の神が私に九州へ行けと後押しする出来事が有った。私は今、10連休の真っ只中なのである。
これは九州に行くしかない。心に決めたのだが、連休前の勤務は苛烈を極め、予約どころではなかった。録画さえも見られぬ日々が続き、終息したのは連休入りしてからという有様である。
こんな状態から手配など出来るものなのだろうか?半ば諦めながら、まずは飛行機のチケットを物色する。直前だと正規料金を取られるだろうから、この旅はかなりの出費になるかもしれない。
だが、今はLCCが有るのだ。
翌日のフライトが12000円。どうなってんだ。これは日本経済がデフレからの脱却を目指しているのがよく分かる。普通の航空会社は商売上がったりである。
最近の経済の縮図を垣間見たところで、サクッと予約を済ませる。航空会社は…ジェットスター?正直存じ上げない。日本の会社なのかも分からない。予約サイトも外国人向けのものを日本人向けにカスタマイズしたような仕様でスイスイ進まないが、そういうものだという魔法の言葉で自分を納得させる。
余談だが、九州行きをツイッターで報告すると、何故か皆「キング・オブ・深夜バス」こと「はかた号」で行くの?と聞いてきた。さすがに私も乗車中に尻が取れる夢など見たくはないので、今回は飛行機にしている。直前まで検討していたことはここだけの秘密である。
九州場所のチケットは、簡単に入手出来た。嬉しいような、悲しいような、でも1年半くらい前までは東京でも似たようなものだったのだ。これからである。
そんなわけで迎えた出発日。
ジェットスターは格安だが、実はこれには事情が有って、なんと出発が成田なのである。これは仕方ない。10時の便に乗るために、朝5時に起床する。
相撲関連のイベントはとにかく朝が早いので、もう慣れっこである。稽古見るのも、当日券に並ぶのも体力勝負だ。3時間の睡眠でも5時になればスコンと起きる。我ながら慣れたものだ。
新百合ヶ丘からバスに乗り、2時間半掛けて成田に到着。フライトよりも長いバス乗車に苦笑いしながらも、すべてを「そういうものだ」で片付ける。
搭乗手続を終えフライトまで時間が有るので、朝にしてはかなりヘビーなクリームパスタを平らげる。30分前になったのでぼちぼち手荷物検査でも、ということでジェットスターのカウンターのお姉さんに場所を尋ねる。
だがここで「もう時間があまり有りませんので」と、結構きつめの口調でたしなめられた。どうやら検査場から発着所まで歩いて10分掛かるらしい。それはまずい。しかも手荷物検査も長蛇の列だ。ここで10分近くのロス。だかこれも「そういうものだ」。
ようやく飛行機に乗り、何だか疲れが一気に押し寄せる。だがここで、困ったことに一つ前の赤ちゃんが大号泣。止まらない。目が冴えるが、疲労は溜まる一方。
九州場所に到着する前に、泣き相撲で完敗。一体この後どうなるのだろうか。不穏過ぎる私の九州場所が幕を開けた。
続く。