幕下相撲啓蒙月間:幕下力士・吐合の5月場所を通じて、幕下相撲を知る。1日目:豊後錦(前編)
幕下相撲とは、何者かに成ろうとする男達の
最後の試練の場である。
序の口、序二段、三段目で諦める力士は多い。
だが、幕下となると十両が見えるだけに
諦めきれない。
人生するかしないかの瀬戸際で、
することを選んだ120人のロッキー達が、
勝つことでしか自己表現できない世界で
己の全てを賭けて闘う。
そこには人間らしい弱さも有る。
その大部分が挫折して辞めていく現状も有る。
だからこそ、私はそこに惹かれる。
幕下相撲とは、私達なのである。
そんな幕下相撲にしか出せない、
等身大の男達の苦闘を、今場所は吐合という
一人の力士に注目しながら共有したいと思う。
当ブログをご存知の方であれば
恐らく誰もがご存知の吐合(はきあい)。
元学生横綱で、幕下付け出しデビューをするも
膝に大怪我を負い、一時は番付外に転落する。
その後幕下に戻るも、以前の相撲は取れず
数年間は幕下で過ごす。
29歳の1月場所に巡ってきた、幕下11枚目でのチャンスで
東龍や千代鳳といった数々の強敵を
独自の攻守一体の突き押し相撲で完封し、6連勝。
次に勝てば8年間夢に描き続けた十両昇進という一番で、
4年ぶりの十両昇進後に
再度幕下陥落を味わった里山との対戦。
互いが死力を尽くした最高の相撲だったが、吐合は敗れた。
その後臀部の腫瘍を患い、体調を崩した吐合は
ジリジリと番付を下げ、先場所は遂に三段目。
5勝2敗と勝ち越し、調子が上向いてきたところで
今場所は西幕下38枚目で迎える。
31歳の吐合にとって、残された時間はもう僅かである。
そんな彼の戦いを通じて土俵を通じて観られる、
ある意味十両や幕内よりもシビアな現状を共有したい。
さて、明日は吐合にとって初日である。
相手を自分の間合いに入れず、
素早い突き押しで相手を後退させて
一気に勝負を決めるスタイルの吐合にとって
得意なのは若手力士や同じような体格の力士。
吐合は彼らならば先手先手を取りながら
何もさせずに牛耳ることが出来る。
そして苦手なのは、大型力士。
間合いを制してもフィニッシュで体を残されて
土俵に落下したり、自分の間合いから突然捕まり、
相手の形にされるなど、とにかく相性が悪い。
そのため、対戦相手の体格やキャリアを見れば
どのような相撲になるか想像が付く。
今回の相手は、豊後錦。
気になるのは、体格である。
小さい力士であることを祈る。
出羽能見部屋のプロフィールによると、
その体格は182cm 150kg。
初日から苦戦が予想される組み合わせである。
特に、古傷の膝が悪い時は踏ん張りが利かない。
先手を取っても相手に余裕が有るので、
速攻相撲で決着を付けようにも逆に墓穴を掘ってしまう。
また、先手が取れないときは相手の間合いを許し、
土俵際に追い詰められても、そこから粘りが利かない。
コンディションと相性。
この二つがカギを握るわけだ。
しかし吐合に出来ることは、体格に劣るからと言って
飛んだり跳ねたりする半端相撲ではない。
北の湖部屋らしく、逃げも隠れもせずに
自らの相撲を取りぬくだけなのである。
苦手相手の初日に星が取れれば、今後の弾みになる。
やれんのか?
38枚目から上位を目指すには、遠回りは許されない。
苦手な相手とはいえ、自分の相撲を取るしかない。
ちなみに、吐合にばかり注目するのも良くないので
対戦相手の豊後錦についても調べてみた。
吐合よりも3学年下の27歳。
その名の通り大分県の出身。
最高位は幕下21枚目だが、
三段目と幕下を行ったり来たりしている。
ちなみに先場所は三段目22枚目で6勝1敗。
幕下39枚目まで大幅に昇進した。
この辺りで幕下にも定着したい。
お互いに負けられない一番である。
ちなみにワンピースとトラックが好きなようで、
特技は早食い。
好きな音楽はアイドル系と来ている。
このような情報を聞くと、一気に親近感が湧くのが不思議である。
携帯の着信音が「パターン1」。
細かいことはあまり気にならないタイプだと推測される。
そして自己PRは、
「今年もよろぴく☆」。
…豊後錦もちょっと応援したくなってしまった私なのだった。
続く。