白鵬に勝つ相撲と、鶴竜に確実に勝つ相撲。稀勢の里が見せた、この1年での成長の軌跡を追う。

稀勢の里が13勝2敗で九州場所を終えた。
安美錦と豪栄道に敗れ、全勝の2横綱からは
離されてしまった。
優勝戦線から脱落し、ああ今場所も、と思ったのは
私だけではないと思う。
慎重に行き過ぎた結果、土俵際での粘りを許し、
最後に自滅した安美錦戦。
左を差した後、勝負を焦って前に出て、
逆転の首投げに屈した豪栄道戦。
どちらも、状況判断を誤った結果だった。
このような歯がゆい稀勢の里を見慣れてしまったことから
期待はするまいと思いながらも、
プレッシャーが無くなると強いのが稀勢の里。
連敗していた千代大龍には一方的な内容で、
碧山には押し込まれても勝ちを手繰り寄せた。
優勝の目が殆ど無い状態での日馬富士戦、
そして、白鵬戦。
そこには、私達が一番見たかった稀勢の里が居た。
リズムに乗ると手の付けられない日馬富士も、
もはや史上最強横綱とさえ目される白鵬も、
稀勢の里は普段着の相撲で倒してみせた。
全てが上手くいったわけでもない。
2人に致命的なミスが有ったわけでもない。
実力で彼らに勝てるのが、稀勢の里なのである。
だが、私が今場所驚いたのは実はこの2番ではない。
そう。
千秋楽なのだ。


鶴竜に勝つことは、稀勢の里にとって難しいことではない。
対戦成績では大きくリードしているし、
相撲の相性を考えても、それほど苦にはならない。
とはいえ、14日目で素晴らしい相撲を取り、
ファンを大いに喜ばせた後で「綱取り」の声が掛かった千秋楽。
前日の相撲が嘘のような、15日間で最悪の内容で敗れる
と言う光景を私達は2度も目撃してきた。
プレッシャーに弱いのか、
白鵬との一番に消耗してしまったからなのか、
この繰り返しだったのだ。
だからこそ、千秋楽の内容に私は注目していた。
日馬富士を牛耳り、白鵬を二枚腰で投げ飛ばした
2日間と比べると、本当に地味な相撲だった。
しかし、その地味にこそ大いなる意味が有ったと私は思う。
100%の相撲が取れる相手と状況であれば稀勢の里が強いことは
誰もが知っている。
白鵬とも対等に出来ることは、5月の時点で立証済みなのだ。
だが、正面衝突をしないかもしれない相手や
直線的な力士に対して勝利を掴むことに関しては
ここまで出来ずに来てしまった。
そんな中で稀勢の里が見せたのは、
確実に勝利を拾う取組だった。
どんな相手が来ても受け止めて、自分の形を作った後で
相手の攻め手を潰し、観念させる。
立ち合いを受け止め、前進を止め、
左をねじ込み、上手を切り、攻めも守りも何もさせない相撲。
遂に、これが出来たのである。
失うものが無い相手が思い切って立ち向かう。
そういう状況で稀勢の里は取りこぼしをしてきた。
そして、その傾向の最たるものこそが、
千秋楽だったという訳だ。
まだ、この盤石の相撲は完成していない。
碧山には突っ張りを許したし、鶴竜にも
もっと楽に勝てたとも思う。
だが、ひとまずこの重圧の掛かる場面で
今まで出来なかったことが出来た。
これは、本当に自信になる。
今の上位力士で、これまでに出来なかったことを
この1年で克服してきた者が一体どれだけ居るだろうか?
稀勢の里は1年で、正面から白鵬を倒すことと
千秋楽に勝ちを拾う相撲を身に付けた。
その結果が、10勝5敗から優勝争いの常連に
名を連ねたことに結び付いている。
これは、想像以上に凄いことだと私は思う。
この相撲が、初場所は再現できるのだろうか?
序盤の栃煌山戦や千代大龍戦で早々に敗れないだろうか?
横綱との対決よりも、私はそれが楽しみである。
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白鵬に勝つ相撲と、鶴竜に確実に勝つ相撲。稀勢の里が見せた、この1年での成長の軌跡を追う。” に対して1件のコメントがあります。

  1. 臼田 より:

    正に自分の’型‘が出来、自信と共に揺るぎないものになっているのでしょう。稀勢の里が最後腰を下ろして寄り切る場面などは理詰めの強さが垣間見られますね。ある意味での「横綱相撲」でしょ!強い相撲とは全てに理にかなっているんですよね、きっと。立ち合いから差し手争い、速攻なのか、じっくりと自分の型に引き込むのか、はたまた土俵を目一杯使って相手の力を減殺させるのかetc.この九州場所は両横綱と稀勢の里が実力を遺憾なく発揮した素晴らしい15日間だったと思います。ケガさえなければ来年早々の横綱昇進も期待大です。

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