序盤の敗戦が、運命を決める。稀勢の里の綱取りについて、過去の失敗事例から対策を考える。
初場所の見どころは、何と言っても稀勢の里の綱取りである。
優勝していないのに綱取り、ということについては
意見の別れるところではあると思う。
日馬富士に対する辛辣さとは対照的に、
稀勢の里に対しては甘いという声も聞く。
そもそも2場所連続優勝という、目安の基準も
双羽黒の失敗から言われ出したことであって
柏戸以降大乃国までの16力士については
実に10力士が綱取り場所で優勝しない状態で昇進している。
ちなみに栃ノ海に至っては準優勝ですらない。
だが、彼らは12勝以上は綱取り場所で残している。
12勝での昇進も、柏戸以降だと柏戸大鵬、
そして三代目若乃花のみである。
それぞれの意見が有るので、私はそれでいいと思う。
横綱に求める水準が人によって異なるので、
これについては永遠の平行線になることは間違いない。
とはいえ、稀勢の里に課せられたラインは
優勝であることは事実である。
では、今場所の稀勢の里はどのように戦えばいいのか?
これを論じることが、生産的なことなのではないかと私は思う。
考えてみると綱取りが懸かった場所は、
そのプレッシャーのせいか、序盤で平幕を相手に敗れて
そこからリズムを失い、優勝には届かないという光景を
今まで散々目の当たりにしてきている。
ではこの印象は、実際に正しいのか?
直前の場所で大関として優勝し、綱取り場所として迎えた
最高位大関の力士の失敗事例を追ってみたいと思う。
◆図1:直前の場所で大関として優勝し、
綱取り場所として迎えた最高位大関の力士の成績(昭和33年以降)
力 士 綱取り場所 1敗目 10日目 最終成績
把瑠都 平成24年03月 4日目 9勝 10勝
琴欧洲 平成20年05月 1日目 7勝 09勝
栃 東 平成18年03月 2日目 8勝 12勝
栃 東 平成16年01月 1日目 7勝 09勝
魁 皇 平成16年11月 1日目 8勝 12勝
魁 皇 平成15年09月 5日目 6勝 07勝
千大海 平成15年05月 3日目 8勝 10勝
千大海 平成14年09月 1日目 8勝 10勝
栃 東 平成14年03月 4日目 7勝 10勝
魁 皇 平成13年09月 1日目 0勝 00勝
魁 皇 平成13年05月 3日目 4勝 04勝
貴ノ浪 平成10年01月 5日目 7勝 10勝
貴ノ浪 平成08年03月 3日目 8勝 11勝
小 錦 平成04年05月 5日目 6勝 09勝
小 錦 平成04年01月 4日目 7勝 12勝
霧 島 平成03年01月 2日目 4勝 05勝
小 錦 平成02年03月 6日目 5勝 10勝
北天佑 昭和60年07月 4日目 9勝 09勝
朝 潮 昭和60年05月 3日目 8勝 11勝
若島津 昭和59年09月 6日目 9勝 11勝
若島津 昭和59年05月 3日目 7勝 09勝
琴 風 昭和58年03月 8日目 9勝 11勝
貴ノ花 昭和50年05月 4日目 7勝 09勝
貴ノ花 昭和50年11月 1日目 7勝 08勝
清 國 昭和44年09月 2日目 7勝 09勝
北葉山 昭和38年09月 1日目 7勝 10勝
若羽黒 昭和35年01月 2日目 6勝 07勝
なんと、全員が中日までに一回は敗れているのだ。
終盤戦まで優勝戦線に残った事例はほぼ無し。
魁皇と小錦がかろうじで残っていて、
一番惜しかった事例は栃東が千秋楽で勝てば決定戦、
という局面で朝青龍に敗れてしまった時なのである。
序盤で星を落とした結果、モチベーションの行き所を失い、
終盤戦に大関横綱を相手に敗れてしまう。
成績が伸びないのは、序盤の躓きが原因となって
負の連鎖を引き起こしているためなのだと理解できる。
しかし、私個人としてはまさかここまで全ての力士が
序盤で敗戦していることになるとは夢にも思わなかった。
大抵の力士が5日目までに敗戦しているのだ。
仮に彼らが横綱であれば、これは金星配給ということになる。
これでは横綱としては立つ瀬がない。
昇進を見送られるのも致し方ないところだろう。
特に、稀勢の里はプレッシャーが掛かれば掛かるほど
序盤に星を落とす傾向が有る。
栃煌山や千代大龍、安美錦戦を落とさずに
ついていくことこそが求められるのではないか?
という結論に落ち着いた。
あともう一つ。
成功事例も念のため見ておきたい。
力 士 綱取り場所 1敗目 10日目 最終成績
日富士 平成24年09月 —— 10勝 15勝
白 鵬 平成19年05月 —— 10勝 15勝
朝青龍 平成15年01月 09日目 09勝 14勝
武蔵丸 平成11年05月 06日目 08勝 13勝
若乃花3 平成10年05月 04日目 08勝 12勝
貴乃花 平成06年11月 —— 10勝 15勝
曙 平成05年01月 08日目 09勝 13勝
旭富士 平成02年07月 03日目 09勝 14勝
大乃国 昭和62年09月 07日目 08勝 13勝
北勝海 昭和62年05月 13日目 10勝 13勝
双羽黒 昭和61年07月 11日目 10勝 14勝
隆の里 昭和58年07月 11日目 10勝 14勝
千富士 昭和56年07月 01日目 09勝 14勝
三重海 昭和54年07月 01日目 09勝 14勝
若乃花2 昭和53年05月 11日目 10勝 14勝
北の湖 昭和49年07月 12日目 10勝 13勝
輪 島 昭和48年05月 —— 10勝 15勝
琴 櫻 昭和48年01月 12日目 10勝 14勝
北富士 昭和45年01月 06日目 09勝 13勝
玉の海 昭和45年01月 06日目 08勝 13勝
佐田山 昭和40年01月 07日目 09勝 13勝
栃ノ海 昭和39年01月 01日目 09勝 13勝
大 鵬 昭和36年09月 04日目 08勝 12勝
柏 戸 昭和36年09月 01日目 08勝 12勝
朝 潮 昭和34年03月 02日目 08勝 13勝
全く意外な結果だったのだが、実に25人中14人が
中日までに一度は敗れていたのだ。
3代目若乃花は小城錦に、
大乃国は前乃森に、
武蔵丸は旭鷲山に、
そして朝青龍は海鵬に敗れている。
そう。
普段であれば、そう敗れない相手に不覚を取っていたのである。
余談だが、北勝海や旭富士は両国に、琴櫻と北の富士は福の花に、
そして大鵬と柏戸は前田川にそれぞれ敗れている。
プレッシャーがかかる場面の力士に対して
力を発揮するタイプの力士が存在するのかもしれない。
重要なのは、躓かないようにすることではない。
誰しも躓くのだ。
それは、この過去の事例からも明らかである。
つまり、躓いた後なのだ。
特に、稀勢の里の特徴として、序盤で躓くことはあるが
終盤戦になると白鵬でも日馬富士でも苦にしない、
ということが挙げられる。
そしてもう一つ。
稀勢の里は連敗しないのである。
最強クラスの相手であっても物怖じせずに
思い切って戦えることと、
極限の状態であってもキレずにやれること。
これは、稀勢の里の誇れる能力である。
だからこそ、仮に序盤に失敗したとしても
周囲に何を言われようとも自分の相撲を取り続けてほしい。
そうすることが、道を切り開くことになる。
今回のデータは、稀勢の里にとって実は有利な結論を見出したのかもしれない。
序盤を落とさないこと。
もし落としたとしても、次の取りこぼしをしないこと。
これこそ、綱取りの秘訣なのである。
◇特報◇
先日、Search_net_boxさんとUstream配信しました。
その時の様子を録画しておりますので、ご覧下さい。
テーマは、「最強の大関は誰か?」
パワーポイント52枚の資料について論じています。
http://www.ustream.tv/recorded/41623628
◇特報2◇
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