幕下上位で旋風を巻き起こす超新星・堀切。高校球児にも通じる、明日なき全力投球の闘い。

19歳の堀切が、幕下上位でも結果を残している。
高校卒業後、序ノ口で6勝1敗、序二段・三段目で優勝。
この成績だけでも十分に彼が逸材であることを物語っている。
三段目の上位で優勝したことから、
堀切は今場所西幕下13枚目で迎えることになった。
三段目と幕下、そして幕下でも下位と10枚目付近は
レベル差が相当に有る。
三段目を全勝し幕下下位に昇進した同級生の爆羅騎は、
先場所なんと全敗だったことからも
その厳しさを窺い知ることが出来よう。
幕下下位の爆羅騎でさえ、この有様である。
それよりも更にレベルの高い幕下上位での取組となれば、
堀切は相当な苦戦を強いられることが予想された。
個人的には今場所は2勝5敗、
次の場所が真の意味での勝負に成るではないかと考えていた。
だからこそ、3連勝という結果は驚きなのである。
だが、真の驚きは3連勝していることではない。
私が驚いたのは、相撲内容である。

堀切の相撲は、回転の速い突っ張りと
引きのコンビネーションが生命線である。
そして、線が細いのでスピード感溢れる動きが有る。
つまり、誰を想像すれば良いかと言えば、彼の師匠の寺尾である。
1日目。
立ち合いからの変化で初勝利をもぎ取る。
2日目。
これまた変化で2勝目。
3日目。
張って引いて、張って引いて。
土俵を所狭しと動きまくって3勝目。
普通、このような勝負の場所で変化や引きを見せると
ロクな結果にはならないのだが、彼の場合は違う。
引きが批判を受けるのは、心の弱さを露呈してしまうことが要因で、
弱さゆえに引くとなかなか決まらないものである。
不利な場面で苦し紛れに引く。
楽をして勝とうと、押せばいいのに引いてしまう。
勿論前に出ることだけが選択肢ではないのだが、
弱さが引きという選択をさせてしまう。
だが堀切の引きや変化は、色合いが違う。
引きも変化も、徹底しているのだ。
その思い切りの良さから分かるのは、
とにかく勝ちたい、ということ。
綺麗な形など要らない。
周りに何を言われても厭わない。
ただ、結果だけは譲れない。
そういう気持ちが、なりふり構わぬ姿勢から伝わるのだ。
このような相撲を、我々は「ハングリー」という言葉で評するが、
私はよもや高卒力士が、しかも幕下上位にジャンプアップする
その場所に感じようとは想像もしなかった。
普通はこのようなケースでは縮こまるか
自分にできるベストを、と心掛けながら結局は
相手のペースに呑みこまれることに成る。
だが、堀切はそうはならなかった。
今の相撲界でここまでハングリーな相撲を取る力士は
日本人・外国人を考えても殆ど居ない。
比較になるのは白鵬くらいなのかもしれない。
むしろ歴戦の猛者たる幕下上位力士が、
堀切のペースに呑まれ、自分の相撲が出せぬまま敗れている。
これは、凄いことである。
そして、このような相撲こそが、観る者の心を動かす。
白鵬の圧倒的な相撲も良い。
遠藤がスマートに乗り越えていく様も魅力的だ。
大砂嵐の異物感も面白い。
だが明日よりも今日という、今日負けたら終わりという
高校野球のような相撲が放つ輝きは何にも代えられない。
このような相撲が観られるのは、恐らく今だけだ。
初々しい堀切を、楽しもうではないか。
追記：爆羅騎が三段目優勝という記述を、
　　　　三段目全勝と改めています。ご指摘ありがとうございます。
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