豊真将引退が特別な意味を持つ理由。怪我の歴史と真摯さを、今改めて考える。

豊真将が引退した。
33歳という年齢と、幕下という番付。
三役まで務めた力士がこの状況で引退することは
自然なことであり、むしろ遅いくらいなのかもしれない。
長く関取だった力士の多くがそうだったように、、
十両から陥落が引退の一つのラインとして存在してきたように思う。
しかし垣添や若荒雄が幕下でも取り続けたこと、
そして栃ノ心や阿夢露が番付を大きく落としても現役を続け、
元の地位に戻ったことはそうした概念を変化させることになった。
今までの豊真将の土俵人生を振り返ると、
最近のそうした潮流を踏まえたうえでも
幕下での現役続行は合点がいくものだった。
怪我の直前の相撲が全盛期と遜色ないものだったことからも
怪我を治せばまだまだ、と感じていたのは
恐らく私だけではなかったはずだ。
豊真将引退に揺れるツイッター。
その日の取組に関するつぶやきの少なさに驚かされた。
他にも永く幕内を務めた力士の引退は目にしてきたが、
豊真将ほどインパクトを残した力士は居なかった。
しかし何故豊真将の引退は、ここまで特別な意味を持つのだろうか。
そこには二つの理由が有るのだと思う。
まずは、引退が突然だったことだ。
豊真将の土俵人生は怪我との闘いであり、
これまでも落ちては上る豊真将の姿を我々は見続けてきた。
「豊真将の全盛期は有りません。
 怪我の連続だったので、いつ一番強かったか分からないからです。」
先日共に相撲観戦した豊真将ファンの方の言葉が
そのことをよく表していると思う。
そしてもう一つ。
この方は豊真将の復帰を信じて止まなかった。
豊真将は当然、土俵に戻ってくる。
幕下に地位を落としながらも、そう思わせるだけの信頼関係が
相撲ファンとの間に醸成されていたということだ。
これほどの大怪我である。
引退という選択肢が現実味を持たなかったこと自体、
豊真将の凄さを物語っているのかもしれない。
そしてもう一つ。
あまりに豊真将が愛される力士だったからだ。
豊真将を語る上で欠かせないのが、真摯な土俵態度である。
土俵での所作が、これほど話題になる力士が他に居ただろうか。
高見盛のような例外は有るにしても、
普通の所作を普通にしている力士がクローズアップされることは
改めて考えてみると異質である。
しかし、一つ一つの所作というのは悪意をもって見ると
「そのようなキャラクターを作っているのではないか?」と
解釈することも可能だ。
誠実さが過ぎると、その裏を勘繰りたくなる。
何故なら、真摯さを貫くことがどれだけ難しいことかを
我々は良く知っているからだ。
そして、怪我の歴史が豊真将の所作に真実味を抱かせる。
そうした悪意の入る隙を、歴史が打ち消しているのである。
真摯であること。
それは相撲を観る上でつい力士に求めてしまうものだ。
だが前述のとおり、それが如何に難しいことかを我々は知っている。
だからこそ品格問題が叫ばれた時に「それは無理なことだ」と
擁護する声も少なからず存在していた。
真摯さから外れたところの中に個性が出るとも私は思っている。
豊真将の怪我の歴史が、豊真将を普通の力士から
「俺達の豊真将」という認識に変化させた。
我々は豊真将の真摯さの歴史を共有し、
誰にも出来ないことを実現する姿に感銘を受け続けてきた、
という訳である。
そんな豊真将が、自ら引退を決断した。
我々はその決断を受け止め、豊真将が居ない土俵に慣れるまでは
その寂しさを想うことになる。
失った後で存在の大きさに気付きたくないと普段から思っているが、
豊真将引退は更にその想いを強くする結果となったのである。
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