九州場所と吐合。1

本人は全く意識はしていないものの、
目に入れば誰もが二度見してしまう特権を持った
幕下力士、吐合。
東幕下19枚目という微妙なポジションで迎えた
九州場所の千秋楽は5勝目を賭けて
栃矢舗と対戦。
幕下9枚目(つまりシングルプレイヤー)の
栃矢舗は吐合と比べると格上ではあるが、
立ち合いは互角。
激しい突き押しは一進一退。
どちらも引かない。当たり前だ。
5勝目を取った者が、来場所での十両挑戦権を
獲得するのだから。


だがシングルプレイヤーたる栃矢舗は
モンゴル人とも対等に戦う実力を見せつける。
攻めながらの引き。
引き技というのは、
相手の推進力を利用して前に倒れさせるのだが、
引きが出るときは幕内であっても
心の弱さに起因することが多い。
だからこそ、稽古場で引きを見せると
大変な目に遭ってしまう。
しかし、栃矢舗の引きは相手の
心理の風上に立ったそれである。
前に出たい心理を鷲掴みにした状態で
誰もが「やられた!」というタイミングで
吐合を引き落とす。
ここで吐合は底力を見せる。
上半身は落ちかけるも、
下半身は崩れない。
むしろ引きで身体が止まった栃矢舗の
先手を取って突き押す。
形勢は徐々に吐合に向く。
土俵際で突き押しの激戦。
あと一押しで勝てる位置に居るも、
崩すには至らない。
栃矢舗の押しも苛烈を極める。
吐合も同じ回転数で対抗する。
遂に突き押しがのど輪へと発展する吐合。
さすがの栃矢舗も身体が上ずってくる。
のど輪が栃矢舗の首を捉える。
懸命にこらえる栃矢舗。
彼の背筋は吐合ののど輪を打ち破ろうと
エビ反りになりながらも
前へと歩を進める。
と、その時。
攻めの引き、である。
このタイミングで引きを喰らうと
さしもの栃矢舗もたまらない。
バレーボールのフライングレシーブ宜しく、
土俵外に堕ちてゆく。
吐合、勝利。
私の吐合史の中でも5本の指に入る
会心の勝利であった。
単なる珍名力士ということで
注目し始めた吐合であったが、
youtubeで7日分の取組をじっくりと
眺めた私は、一つの事実に気付いた。
続く。

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