相撲部屋の稽古に一度だけ行ったが、不運にも見られなかった私が再度稽古に行ってみた part3 西内編

念願の相撲部屋見学で、畳の間に座ると目の前には
いつものスタイルで後輩力士を圧倒する吐合が居た。
北の湖部屋に来たのだ。
これが稽古なのだ。
身が引き締まる思いである。
身体と身体のぶつかり合いで、乾いた音が響く。
力を出すために息を吐きながら攻め立てるので
テレビでは二次元だった見え方が
更に深まって三次元化する。


勝ち続ける吐合であったが、取り続けてさすがに疲れたのか
一方的に押し出されて一度土俵の外に出る。
そして、そのほかの力士が名乗り出る。
その中にはあの時の一心龍や大露羅も居る。
ある程度ローテーションが有るのか、
先程まで申し合わせを多く取っていた吐合や
他の力士は土俵外の少し離れたところで四股を踏んだり
動きを確認したりと、各々が自身の課題の修正に挑んでる。
そんな中、親方の怒声が響く。
「西内!お前やる気あんのか?」
西内。
幕下と三段目を行き来する力士である。
細身の体で、額が少し後退している。
力士というよりはJAのキャップを被せれば
近所の畑から出てきそうなタイプである。
確かに西内はこの申し合わせに
あまり積極的に参加してはいなかった。
彼自身の課題が有るのか、そういうものなのか
私には判断が付かなかったが、
少なくとも数をこなしている様子はなかった。
そうした力士は他にも居たが、何故か西内だけが怒られた。
確かに彼は怒られるタイプに見える。
叱られてもいい意味で臆しない。
また、周囲も彼が叱られることで自分も気を付ける。
損な役割なのだが、組織としては必要な人材である。
気の毒だが、そういう教育方針なのだ。
私はそう理解していた。
だが、親方は続ける。
「痛いなら、今日は止めろ。
 痛くないなら、続けろ。
 どっちなんだ?」
私は相撲部屋を勘違いしていた。
痛くても稽古には参加する。
痛みを口にすること、即ち弱さである。
痛くても稽古で治せ、という言葉も耳にしたことが有る。
良くも悪くも前時代的。
それが私のイメージだった。
親方からは竹刀が飛び、先輩からは罵声が飛ぶ。
若手たちはそんな日常に怯えながら、
強さへの渇望を深めていく。
だから、痛みを休む理由にはしない。
そう理解していた。
だが、そうではなかった。
全国大会で200球投げて、美化される。
体罰が横行して、出場停止を食らう。
野球界の方がよほど前時代的ではないか。
北の湖部屋だけのことかもしれない。
だが、少なくとも彼らはこの方針で人を育てている。
私は、そのことが嬉しかった。
そして、その輪の中心には吐合が居るのだ。
この部屋を選んで良かった。
そう思いながら痺れた足を崩し、
胡坐をかくのだった。
続く。
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