「DOCUMENTARY of 吐合 幕下力士たちは傷つきながら、夢を見る」。前編

最近ブログトピックとして出していなかった、
幕下力士:吐合(はきあい)。
元学生横綱で鳴り物入りで角界入りするも、
大怪我を負い、付け出しデビュー力士としては初の
番付外に落ちた。
月収100万円という、大企業の役員クラスの待遇が
あと僅かに迫りながら、不運にも彼は
フリーターと大して変わらない年収100万円に
甘んじることになった。
デビューから8年。
ようやく掴んだ十両昇進のチャンス。
6連勝で迎えた、この一番を勝てばという取組。
彼は大激戦の末に、里山に敗れた。
努力をしている者が必ずしも報われる世界ではない。
理不尽なことの方が多い。
だが、その中で傷を負いながらも、
先行きは不確定な中、幕下力士は一人前の力士になるために
常に前を見ている。
私はそういう幕下力士のストイックな生き様に心打たれて、
今こうしてそのマインドを伝えるためにブログを続けている。
あれは先場所の出来事である。


私は11日目の午後から国技館に居た。
飯田橋で打ち合わせの予定が有り、午後は何も予定が無い。
総武線一本で国技館まで行けることと、
何よりも吐合の勝ち越しを懸けた一番が有ったため、
直前でチケットを入手したのである。
3勝2敗。
例の十両を懸けた一番の後、休場などがあり
幕下2枚目からズルズルと三段目から落ちて、
そして幕下に戻って最初の場所。
身体が無く、抜群のテクニックを持っているのだが
リスクを負って一気の攻めで制するスタイルのため、
番付が下がっても上がっても、大きく勝ち越すことも
大きく負け越すこともあまり無い。
だから、これほどの実力者ではあるのだが
番付を落としても予断を許さないのである。
もう31歳でもある。
言い方は悪いが、いつ自分自身に見切りを付けても
おかしくない状況だ。
可能性有る限り見ていたいのだが、そうもいかないことも
十分に想定される。
吐合は私にとって恩人である。
幕下で相撲を取る者の生き様は私に影響を与え、
人生訓となるに至っている。
恩人が土俵に上がるのであれば、目に焼き付けたいと思うのは
私にとって至極当然のことである。
私は国技館に足を運んだ。
勝ち越しを懸けた一番。
イス席からその時ばかりは通路に降り、
少しでも近くで相撲を見届けた。
手に汗を握りながら取組を待つが、
幕下の相撲は仕切るとすぐに取組が始まるので、
緊張する間も与えない。
立ち合いから吐合ペース。
土俵際まで一直線に押し込む。
だが、そのまま決められない。
身体の無さがここで弱点となる。
悪い時はここから投げを喰らったり、
引きに屈するのだが、そこから更に攻める。
相手が前に出るのを見越して引く。
攻めの引き。
たまらず崩れる水戸豊。
強い。
素晴らしい相撲である。
拳を握り、誰に伝えるでもなく喜びを噛みしめる私。
しかし、どうしてもこの喜びを誰かに伝えたい私は
ツイッターでこの朗報を報告する。
私がこの恩人を応援していることは、
誰もが知っているので、温かい声を頂く。
自分のことのように嬉しい。
その中で、一つだけ毛色の違うコメントを残したのが
私にネットラジオへの出演をさせてくれた
JUKE DJの、DJ Aprilさん。
「出待ちしたらええんちゃう?」
私にとって力士とはリスペクトの対象なので、
直接話すという発想も無く、
またそういう距離感で仰ぎ見るものだと考えていた。
室生犀星ではないが、つまりこういうことである。
力士とは、遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
だが、この時の私は違った。
小田和正「ラブストーリーは突然に」のイントロが
突如として脳内を駆け巡る。
ラブストーリーとはベクトルが異なるが、
力士愛、吐合愛という意味では大して変わらない。
出待ちしたところで、そこから
出てこないということも想定される。
だが、そんなことはどうでもよかった。
何としてても、感謝の気持ちを伝えたい。
そして、有難迷惑かもしれないが、
こうして観ている者が居るということを知ってほしい。
私は、荷物を片手に走っていた。
気分は完全に織田裕二。
例えが古いのは、世代のせいである。
そして、1Fに降りた私は、一つのことに気付いた。
…力士の出口ってどこだろう?
後編に続く。

「DOCUMENTARY of 吐合 幕下力士たちは傷つきながら、夢を見る」。前編” に対して2件のコメントがあります。

  1. きしめん より:

    北の湖部屋に入門したことで、もし、関取になれなくて終わるとしても、確実に今後の糧となる人間性を身につけているはず。
    吐合、そのあたりは胸を張ってほしいですね!
    ところで、北の湖部屋OBの元北桜の式秀親方が、式秀部屋の伝統を大切にしながらも、、
    『北の湖部屋直伝の人間教育』
    というような表現を使い、式秀部屋で力士を指導したいことを言っていたのが興味深いです!
    さて、幕下優勝争いは、海龍と剛士。
    海龍は、思いがけない十両昇進のチャンスが巡ってきましたね!
    剛士は、一気に幕下一桁へのジャンプアップを伺いたいところ。こちらの兄弟力士も、お兄さんを追い越して水が開きつつあるな…

  2. Nihiljapk より:

    北の湖部屋の稽古を観に行き、
    彼らは単なる相撲を取る集団ではなく、
    人間教育をする場なのだ、ということを
    強く感じました。
    北桜さんの言葉が、私の感じたことを
    更に強固にしてくれたようで、とてもうれしく思います。
    海龍と剛士。
    まさかの組み合わせです。
    ワンチャンスをモノに出来るか。
    一生に一度のチャンスの可能性も有りますが、
    こういう上がり方をすると、その後が大変なので
    それはそれで心配になります…

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