白鵬が主語の大阪場所は、ここ数年で一番のターニングポイントである。時代を切り開く「するか、しないか」とは?

大阪場所がもう始まる。
結局初場所終了後、1ヵ月半の話題はほぼ白鵬だった。荒れた白鵬の狼藉ぶりが連日伝えられ、口を開けばその内容が、無言でも無言だったことが記事になる。何をやっても記事になる。いや、やってもやらなくても記事になる。このような存在は総理大臣か今の白鵬くらいだろう。それほど白鵬の話題が連日報じられた。
考えてみると、行動の全てが記事の対象になり、またその全てについて悪意というフィルターを通して語られる力士は、朝青龍以来であることは間違いない。もうそこに、批判することに対する躊躇いは無くなっていた。永く相撲界を支えてきた恩人という残像は、1か月の間で消え失せていた。むしろ有るのは、放出された苦言の数々である。
そんなわけで白鵬が主語で語られる今場所なのだが、私の中で今場所は今後のターニングポイントではないかと考えている。今場所の結果次第で、大相撲を語る軸が決まるということだ。つまり「今後の相撲界を支えるのは誰か」なのか、「暴君:白鵬が何をしでかすのか」なのか、である。
ハッキリ言って、白鵬にとって今場所はデビュー以来最も異常な場所と言っても過言ではない。自分が主語として語られることそのものがあまり無かった訳で、大横綱としてはそれ自体異例のことだ。横綱に昇進した時は朝青龍が大ヒールとして君臨し、朝青龍が姿を消した後は暫く大相撲に対する批判が渦巻いていた。人気が回復して以降は成長した力士や登場した力士に対する期待で語られた。
その上、その注目というのは悪い意味での注目だ。これほどまでに相撲の枠を超え、スポーツ界の一大事というレベルで白鵬の豹変が語られる今、注目を集めることはおろか、悪意という目に見えない敵とも戦うことを余儀なくされる。
琴勇輝と千代鳳に対する苦言について見ても、負の力が土俵以外に向かっている。これはもう、自分を保てる状態でないことは明白だ。
だが、視点を変えるとこれは別の切り口で語ることもできる。つまり、他の力士にとってはまたとないチャンスなのである。白鵬がここまで異常な状態で臨む本場所は今まで無かった。こうも言い換えられる。この異常な場所で白鵬が勝てたとしたら白鵬の時代は今後も続くことになる。だが、ここで誰かが抜け出したとしたら、これを足掛かりに新たな時代の扉を開くチャンスが巡ってくる。
脇腹を痛めた時、稀勢の里が成長した時、遠藤や逸ノ城が登場した時、新たな時代が来るのではないかと語った。だが、今にして思うとあれは願望も大いに含まれていた。閉塞感を打破してほしいという期待だったと思う。白鵬はそういう期待を跳ね除け、第一人者の強さを見せ続けた。その度に私は白鵬に対する賞賛の言葉を連ねながら、時代が変わらないことに苛立ちを覚えていた。
これまでも、時代が動く兆候は有ったのだ。
だが、白鵬の強さが悉く退け続けた。
この大阪場所は、白鵬が最も危機に瀕した場所であることは間違いない。逆に、この白鵬にも勝てなければ更に白鵬が衰えるまで雌伏の時を過ごし続けざるを得ない。
チャンスだ。大阪場所は大チャンスなのだ。誰が今、野心を持って相撲に向き合いっているのか。それが問われる大阪場所なのである。白鵬のかわいがりを恐れ続けるのか、同じ立場で闘うことを選ぶのか。
そういうターニングポイントで、かつて白鵬は朝青龍と闘うことを選んだ。昇進するまでの白鵬は、朝青龍との相性が大変悪かった。なかなか勝てなかった。それでも誰もが朝青龍に恐れ、顔色を伺っていたあの時代に白鵬は勇気ある決断を下した。その決断は時代を動かし、白鵬は稀代の横綱:朝青龍の対立軸になるまでに至った。最終的に白鵬は、朝青龍に本割で7連勝することになった。
誰が、この勇気ある決断をするか。人生するかしないかの2択に迫られる中で、することを選ぶのは誰なのか。
三役で「個性派力士」という名の体の良いポジションに収まるのか。大関で「互助会」と言われながらある意味厳しくも、ある意味優しくも有るポジションに居座るのか。それとも、優勝しなければ批判の対象という、相撲界の顔に手を挙げるのか。
これは割に合わない立場だ。根拠も無く、手軽に批判を受ける立場なのだ。数字を元に説明しても、昔の力士の狼藉ぶりを持ち出して説明しても、聞く耳を持たれないのが横綱の辛さだ。
そういうことを、新時代の旗手達は全て分かっている。
分かった上で二択のどちらを選択するかで苦悩している。
だが、土俵の上では生き方の全てが見えると私は思っている。逃げる時も、闘う時も、その気持ちは取口の中に現れる。誰がどのような決断を下したかは、恐らく明白だろう。そして、今場所であればその決断が良い結果を齎すことになるだろう。それほどの追い風なのだ。
今場所白鵬が優勝したならば、今後も白鵬は主語として語られることになる。何をやっても、何を語っても突っ込みを受ける、かつての朝青龍のように。メディア上で白鵬はモンスターとして君臨することになる。新たな時代が到来しないことに対する苛立ちは、モンスターに向けられることになるだろう。
誰が何を想い、土俵で何が行われるのか。
新時代か、白鵬時代か。
「するか、しないか」の決断に注目したい。
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