琴勇輝が貫いた「ホウッ」の道。勇気ある決断の陰で、論点をずらせたのが白鵬である理由とは?

琴勇輝が「ホウッ」を続けたことが話題である。
ここ数年、琴勇輝が取組前のルーティーンの一部として、仕切る前に「ホウッ」と一声出していたのだが、場所前に白鵬が「犬じゃないんだから、ほえるな!」と指摘したことで、一躍注目を集めることになった。奇しくも同じルーティーンを持つ千代鳳との対戦となった昨日、この取組は取組もさることながらその前の所作が注目を集めることになった。千代鳳が自粛したのとは対照的に、琴勇輝はこの所作を行った。
その時。
館内は割れんばかりの大歓声で包まれた。
私は驚いた。「ホウッ」というルーティーンは確かに今までも会場を沸かせてきた。琴勇輝も千代鳳も気持ちの良い押し相撲を取る、期待の若手力士だ。そんな彼らが取組前に行う、名物ルーティーンであることは間違いない。だが、正直私はこのルーティーンがここまでの支持を集めるものだという意識は無かった。
明らかにそこでは、観客が一つの意志を共有していた。琴勇輝の勇気ある決断は、あの時満場一致で支持されたのである。琴勇輝はあの瞬間から一人の幕内力士ではなく、特別な力士になった。特別な力士でなければ、あれほどまでの支持を集められないからだ。
恐らくこれから琴勇輝は、どこかで白鵬から苛烈なかわいがりを受けることだろう。それはこれから暫く続くかもしれない。そういうことを受け入れたうえで、琴勇輝は「ホウッ」を貫いた。土俵上での「ホウッ」がどのような意味を持つか分かっていたからこそ、観客はその決断を支持したのである。
だがここで一つ気になることが有る。
それは、本来の論点とは異なる部分に着地した点である。
「ホウッ」について考えてみると、否定的な見解になるだけの理由が有る。白鵬の指摘たる、行儀が悪いという部分についても尤もではある。そして何よりも「ホウッ」は相手を待たせることになる。自分のリズムで仕切れるうえに大歓声が巻き起こる。不平等であることは明白である。白鵬はそういうことを言いたかったに違いない。全てが正論だ。反論のしようもない。論の正当性で考えると、白鵬が優位なのは間違いない。だが、会場は琴勇輝を支持したのである。
つまり白鵬が指摘することによって、正しさとは別のベクトルに話が転じたということだ。
白鵬は今、非常に厳しい状況である。審判部批判によってファンの心が離れてあらゆることが悪く受け止められている。今回の琴勇輝に対する指摘は確かに正しいのだが、それ以上に白鵬自身がやらかしているためにまず言いたくなるのが「お前が言うな」なのである。
自分自身が謝れないのに、他の力士に対しては厳しいのはどういうことなのか。そう思われても仕方が無い状況だ。本来の論点ではなく、白鵬が発言したことによって「白鵬に厳しい指摘を受けた二人が、如何なる決断をするか」に変わったわけである。それは我々がこの問題を捉えるときの論点であるだけでなく、渦中の琴勇輝と千代鳳にとっても同じことだった。
怖い横綱から文句を言われている。その中で自分が今まで続けてきたルーティーンを捨てるのか。それともそれを自分の道として貫いていくのか。二人は究極の二択を迫られることになった。そこに正しさは無かった。自分の信じた道=ルーティーンであり、ルーティーンを守ることは己の道を愚直に貫くことを意味した。そういう構図になってしまったわけである。
そしてこれが大変皮肉なのだが、論点をずらせてしまった張本人こそ、白鵬なのである。
今の白鵬が発言すると、そこには白鵬という論点が生まれてしまう。正しさではなく、白鵬がどちらを支持しているのか。これこそが大きな問題なのだ。白鵬の側に立てば迎合したことになり、逆の立場になれば勇気ある決断となる。事実そうした側面はあるのだが、正しさではない部分で議論が進むことは渦中の人間にとっても白鵬にとっても不幸なことだと私は思う。
本場所が始まってから白鵬は、それほど多くを語っていない。とりあえず今はそうすべきだと思う。要らぬ議論を巻き起こし、悪役となることが宿命づけられている今、そうしたリスクを享受したうえで主張することはそれほど無い。
白鵬は今、誤解されている。
だからこそ、今が重要なのだ。
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琴勇輝が貫いた「ホウッ」の道。勇気ある決断の陰で、論点をずらせたのが白鵬である理由とは?” に対して1件のコメントがあります。

  1. shigesakabe より:

    単純にマスコミが稚拙なのです。ネット右翼からたたかれることを過剰に恐れています。癌は相撲協会ではなくマスコミです。「白鵬の差別発言」などとほえていたあほなマスコミがありましたが、そもそも差別発言などというものは差別する側を指すもので、差別されているものは最大限擁護されるべきです。最低限の教養、常識を持たないものに紙面を与えることは、言論の自由以前の問題です。そういった意味では白鵬は問題点を理解していると言えます。マスコミなんぞ相手にしても心みだされるだけだと。

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