白鵬1000勝が教えてくれたこと。記録に残る力士は、記憶にも残る力士である。

1000勝。
関取で11年、全勝しても990勝。
理屈の上では12年で達成できる記録だが、勿論そんなに簡単な訳が無い。最初から突き抜けた実力の力士など居ない。誰しもどこかで壁に当たり、番付が停滞したり、場合によっては大きく落としさえする。
幕下を観るようになってから分かったことだが、十両を経験した後に幕下に落ち、その後幕下から抜け出せない力士は本当に多い。幕下に慣れると、幕下の相撲を取るようになる。身体も相撲も、幕下のそれになる。
順調に番付を伸ばし、そのまま頂点を極めるというのは難しいことなのである。
「3年先の稽古」とは、相撲の領域を超えて使われる言葉だ。もはや慣用句と言っても差支えない言葉ではないかと思う。今の勝ち越しという小さな花を咲かせるのではなく、将来番付を上げるために、大きな花を咲かせるために努力する。
これは稽古を見学するようになってから分かったことだが相撲部屋の稽古は、テレビの映像で見るよりもはるかに厳しいものだ。
力士達は砂にまみれ、息を切らせて立ち上がる。そのすぐ先には先輩力士が居る。すぐに立たなければ、髷を掴まれ、平手打ちを受ける。平手打ちなどまだ可愛い方だ。高田川親方に至っては、輝を革靴で蹴ることも有る。
だが本当に怖いのは、物理的な打撃ではない。
そう。
終わることの無い稽古である。
ぶつかり稽古をする。
押す。
押す。
押す。
腰が伸びていれば、すぐに転がされてしまう。
息が切れているので、体に力が入らない。苦しさも限界を超えているので、早くやめたくて仕方ない。そういう気持ちが、ぶつかり稽古には如実に表れる。相撲に対する姿勢が、限界を超えた時に見えてしまう。だから、先輩は弱さを見せると容赦しない。
そういう稽古は、観ていて辛い。
だが、彼らは稽古し続ける。
明日のために、3年後のために。
自らを限界まで追い込み、自分に勝てた者が関取の座を掴む。彼らは選ばれし者たちだ。幕下を観るようになってから私は関取を超人だと思うようになった。誰にも出来ないことをやってのける。弱さを乗り越え、彼らは年収1000万、付き人、個室という特権を享受する。
十両以上とは、そういう地位なのだ。そして、白鵬が1000勝した力士達というのは、ほぼ全て彼ら超人が相手なのである。
白鵬は元々、序ノ口で負け越しを経験した力士だ。横綱になるような力士では、あまり前例の無いことである。よく入門当初の60キロ台の白鵬の写真が出ることが有るが、そういうところからのスタートだったのだから、どれだけの苦労が有ったかは想像出来ない。それほど、今の白鵬と当時の白鵬は違うのだ。
これは、本当に偉大な記録だ。ここ数年、下のカテゴリの相撲を観て、更には現場を観たからこそ分かることだ。
「記録より記憶に残る選手になりたい」
よく聞く言葉だ。元々は記録の面で圧倒する王貞治と、印象的な活躍をする長嶋茂雄の両者を称える「記録の王、記憶の長嶋」という言葉が下敷きに有ったそうだが、近年では記憶に残るということが殊更に褒め称えられる風潮が有るように感じている。
だが私はそういう方達に言いたい。
記録を舐めるな、と。
記録というのは、継続的に頂点の闘いに身を置かなければ達成できないものだ。肉体的にも消耗する。当然怪我もする。競技者の殆どが怪我に泣き、本来のパフォーマンスを発揮出来ない状況である。肉体的な消耗は精神的な消耗を誘発する。取りたい相撲が取れない。結果が出ない。明日が見えない。
悩んでいても、身体が動かなくても、2ヶ月に一度本場所は訪れる。本場所は力士を待ってはくれない。特に上位の力士は相撲界の顔としての役割も担っているので、状態が悪くても出場せねばならない。記録を残すということは、それだけ大変なことなのである。
印象的な活躍を見せることも素晴らしいことだ。その活躍の裏には当然、先のような苦労が有る。しかし、記録に残る選手達はそういう次元の活躍を続けている。彼らの一瞬を褒め称えるのであれば、その一瞬の最大風速を継続する彼らに思いを馳せてほしい。それが出来れば「記録よりも記憶」という言葉を一方的に賞賛出来ないと私は思う。
稽古の量も当然凄いだろう。そして、怪我を回避するための自己管理も相当なものだと思う。「強く成るにはどれだけ自己管理に金と時間を費やせるか」という言葉を元力士の方から聞いたことも有る。
ただ我武者羅なだけでは、記録は達成できない。土俵の外での不断の努力も当然、求められる。そういう相撲なのだから、記憶に残らぬはずがないではないか。
記録に残る力士は、記憶に残る力士でもある。
白鵬の1000勝は、それを教えてくれたように思う。
◇おしらせ◇
11月27日に東京近郊で相撲観戦会を開催します。今回は特に縛りは設けませんので、参加をご希望の方は詳細を案内いたしますのでプロフィール欄を参照の上、メールいただけますようお願いします。
◇おしらせ2◇
11月23日に神楽坂で朝活講師を務めます。九州に行かない方は、是非ご参加下さい。最強力士は誰か。皆様とざっくばらんにお話出来れば、と思います。まずは以下のパスをご確認の上、参加をご希望の方はその旨ご回答ください。
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