豊ノ島でも、4勝3敗。幕下上位の厳しい現実。
朝弁慶が、4勝3敗。
富士東が、4勝3敗。
そして豊ノ島が、4勝3敗。
これが幕下上位の、厳しい現実だ。
場所前に十両昇進予想をしたとしたら、かなりの人が彼らを挙げていたのではないかと思う。関取としての実績があり、コンディションを戻せばこの地位ではある程度勝てるのではないかと予測しやすいからだ。
事実、彼らのようにキャリアが有り幕下に落ちてきた力士の多くが、これまですぐさま十両に戻っていった。そして、彼らは幕下に戻ることは無かった。幕下と十両、そして幕内にはそれほど大きな差が有る。
実績有る力士が幕下で相撲を取るのは心が痛む。だが彼らが元関取として圧倒的な強さを見せるのは、私は好きだ。もし豊ノ島が幕下と取ったらどれだけ違うのか。そしてその違いを彼らは見せ付けてきた。
ああ、やはり実力者は違うのだ。
そう再認識するのは悪いことではない。
私は今までそう考えてきた。
だが、その考えを今回改めざるを得なくなった。そう。幕下上位は、もうそのような地位ではなくなってきているのである。
朝赤龍が孤軍奮闘してきた高砂部屋の将来を担いながらも、幕下に転落した朝弁慶。平塚であれほどの期待を集め、そして圧倒的な存在感を誇っていた朝弁慶が、幕下に落ちたことは私の中で少なからずショックだった。
そもそも土俵上でも土俵外でも、朝弁慶の存在感は群を抜いていた。地位が人を作るのだろう。平塚での立派過ぎるほど立派な振る舞いで周囲の期待に応える姿に、まだ十両未経験だった1年前の姿を重ねて微笑ましくも少しばかり寂しい気で居たのだが、その9月場所で幕下に転落するとは全く想像していなかった。
朝赤龍から朝弁慶へのバトンタッチという歴史的な継承が行われたと認識していたのだから、幕下に転落した朝弁慶はさぞや強いだろう。いや、強くなければ困る。相撲的にも恐らく幕下上位ではモノが違う。私はそう考えていた。
だが、栃丸に敗れた。
海龍にも敗れた。
更には、富士東にも敗れた。
2勝3敗と後がない状態から何とか連勝して、勝ち越しで九州場所を終えた。7番目の相撲では十両の大翔鵬との対戦が組まれたのだから、本当に危なかったと思う。それでも勝つのだから、実力は間違いない。とはいえ、そういう朝弁慶でも何とか4勝3敗だ。
力真が筆頭で6勝1敗。
照強が全勝優勝。
坂元も筆頭で4勝3敗だ。
要するに、実力者は朝弁慶や豊ノ島、富士東だけではないということである。
希善龍も居る。
若乃島も居る。
栃丸も居る。
海龍も居る。
彼らは上位で勝ち越している。
そして、今年の5月に稽古を観た時に確実に十両昇進すると感じた志摩ノ海に至っては2勝5敗だ。他にも実に恐ろしい現実が、実力者達を呑み込んだ。
魁は幕下11枚目で負け越した。
出羽疾風は12枚目で負け越した。
徳真鵬は15枚目で負け越した。
もう以前の幕下ではない。
これが2016年の、幕下なのである。
1月に琴奨菊と優勝を争い、その琴奨菊に勝った豊ノ島ですら4勝3敗だ。もう何が起きてもおかしくはない。一度落ちれば誰もが必死に成らねば戻ってこられない場所に、幕下は変容したのである。
2017年、幕下相撲はどのように変貌するのか。そして誰に対して、牙を向けることになるのか。安心できる力士など、誰も居ない。
そう。
豊ノ島ですら吞み込まれたのだから。
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志摩ノ海は5月場所後、十両昇進しています