4年前の絶望と、初金星の物足りなさ。蒼国来の可能性は、無限だ。
もう、やめた方がいい。
いや、もう見たくない。
しかし、続けねばならない。
そして私は、これを見届けねばならない。
4年前の稽古総見。大人と子供かと思うほど、彼らの差は歴然としていた。いや、大人と子供というのは例えではない。本当にそれほど絶望的な差が有ったのだ。
押す。
押す。
全身の力を振り絞り、押す。
しかし、その力士はビクともしない。
これほどまでに、押すことが出来ないものなのか。たとえそれが、角界の第一人者であったとしても。彼は幕内力士だったのだ。
ブランクはここまで力士を変えてしまうのか。確かに、現役力士としての道は開けた。だが力士としての未来が明るくないことは、あの場に居た誰もが感じたことだろう。
幕尻でスタートするが、一体どこまで番付を落とすのだろうか。夏場所は、何番勝てるのだろうか。もしかすると、勝てないかもしれない。いや、勝つことが出来たら逆に凄い。この相撲で一体どうやったら勝てるというのか。
必死にかつての姿を取り戻そうとするのだが、体がついてこない。衰えなのか、準備不足なのか、両方なのか。戻ってきてほしい想いは有るが、それを求めるには今の彼には厳しすぎる。
頑張れ。
でも、多分難しいだろう。
多くを求めることは出来ない。
だが、将来を見限るのはあまりに失礼だ。
私は相反する二つの想いを抱きながら、蒼国来を観ていた。
あれから4年。
このような日が来れば良いと思いながら、来ることは無いだろうと思っていた。だから、今の姿を嬉しく思いながらも、その活躍を絵空事のように感じていた。途中までは。
今の蒼国来は、強豪力士の一人だ。同情を買いながら、観客の声援を力に変えて戦っているわけではない。そのことが素晴らしいと、私は少し前に書いた。その時は復帰前から少し番付を上げたところだった。
だが、物語にはまだ先があった。
幕内で一進一退を繰り返し、たどり着いた前頭2枚目。
結びの一番。
今日は、良い相撲ではなかった。
日馬富士に先手を取られた。
残しながら、チャンスを伺う。
いや、チャンスを伺うような余裕は無かった。
防戦一方だった。
それでも、この強豪力士は初金星を掴んだ。4年前のあの光景からは信じ難い光景である。だが私はその結果の重みを感じながらも、込み上げるような何かを感じることはなかった。むしろ、この初金星の相撲に物足りなさすら覚えていた。
この初金星の重さを感じたのは、4年前のあの出来事に想いを馳せた後だった。本当は感動すべき場面だ。だが、私にはこの結果は感動しようとしなければ感動できないのである。
何故なら蒼国来は、まだやれる力士だからだ。
物語はここで終わりではない。一度の金星、それも幸運を手繰り寄せる形で掴んだ金星だけでは、まだ物足りないのである。蒼国来の奇妙な物語は、一体どこに向かうのだろうか。
宇良が幕内に昇進し、嘉風が大関候補になり、そして稀勢の里が横綱に昇進したのが2017年の大相撲だ。誰が何を成し遂げても、それが現実だ。それを奇跡と呼ぶことは失礼に当たると私は思う。
あの時、期待することすら酷だと感じた力士に対してどこまで期待して良いのか戸惑っている。その事実が、私は嬉しいのである。
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3月14日に、SBSラジオ『IPPO』に出演しました。大相撲の楽しみ方と、今場所の見どころについてお話しいたしました。関係者の皆様、お聴き頂いた皆様、ありがとうございました。
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