野球の二軍と幕下相撲の違いとは？後篇

野球の二軍と幕下相撲の違いとは？前篇
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相撲独自のヒエラルキー構造がもたらす
経済的な事情の特殊性は、幕下相撲を時に残酷に、
時に関取を上回る魅力を我々に提供する。
だが、その魅力を提供するのは果たして
経済的な事情に依るものだけなのだろうか。
例えばボクシングの世界は日本チャンピオンでさえ
競技をする傍らでアルバイトに従事せざるを得ないという
大変ストイックなものである。
野球の独立リーグにしても同様の状況である。
幕下相撲をストイックに、生死を賭けた戦いに彩る要素。
それは何か。

他の競技との違い。
それは、競技と選手（力士）に対するリスペクトの差ではないかと思う。
スポーツエリートというのは幼少の頃から
憧れの対象である。
子供の頃のクラスのスターの顔ぶれを考えてほしいのだが、
大抵の場合は運動能力に優れた子なのだ。
子供として生きていく上ではフィジカル的要素を
問われることが多く、その有無がピラミッドの序列を象るのは
当然のことといえるだろう。
スポーツエリートに成れなかった者、
もしくはかつてスポーツエリートだった者は
自分達が成しえなかったことを高い次元で達成している
ということに対して憧憬の念を抱く。
そして、それがサッカーや野球のようなメジャースポーツであれば
その度合いは更に増す。
アスリートへのリスペクトというのはこのような
幼少の頃の体験が今も影響を与えていることは間違いない。
翻って相撲である。
相撲もまたメジャースポーツなのであるが、
他のスポーツと比較すると極めてリスペクトを得にくい競技である
と言わざるを得ない。
競技そのものに対するリスペクトは、最近の不祥事問題などによる
報道姿勢による影響から壊滅的な打撃を受けている。
相撲そのものに対してマイナスイメージを抱くということさえ
一般的になりつつある。
そして、力士に対する印象なのだが、
他の競技のアスリートと比較してマイナス要素が多く存在する。
本来人間の持つ造形美とは対極に在る、太っているという要素であったり
裸に廻しという出で立ち、そしてチョンマゲ。
文化的な側面や競技に対する強烈なリスペクト意識が無ければ
このような要素を不問にすることは難しいことだろう。
そして、女性的な視点からも力士を魅力的に映し出すのもまた
大変難しい時代になっている。
父性に対するリスペクト意識が失せ、
少女マンガやジャニーズの影響から中性的な男性が
好まれるようになって久しい時代に於いて
父性の要素を全面的に打ち出す力士が異性の関心を惹くのもまた
大変難しいことである。
何が言いたいかというと、力士に対するリスペクトを得づらい
時代背景になっているということは、
つまり力士が自分自身をリスペクトし難い状態だということである。
幕下力士は相撲界に於いてもまだ認められた立場ではない。
そして、本人自身も自分自身を信じにくい立場である。
幕下とは、そんな立場の人間（力士としてではなく）が
一人前たる十両を遂に視界に捉え、
自己実現をするための戦いの場でもあるのだ。
だからこそ、1番1番に賭ける意識は相対的に高くなり、
誰もが明日の為に出来ることは何でもする。
そこには自分を信じきれない者ならではの
人間的な葛藤、弱さ、そしてそれを克服する強さも存在する。
幕下相撲を観るということは、単に結果を楽しむ行為ではない。
超人ではない、身近な人間の成長記録なのであり、
ハッピーエンドだけではない人臭いドラマの一端を
観ることにこそ、大きな魅力があるのだ。