絵本作家:貴乃花の「光のテーブル」を今私たちが読まねばならない理由。前編。
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絵本作家:貴乃花という不安しかない転身。
大相撲11日を終えてYoutube配信を行っていたところ、佳境を迎えたところで大ニュースが飛び込んできた。
貴乃花、絵本作家転身。
最初は嘘だと思った。コメントをつぶやかれた方がよく冗談を言うこともあり、真偽を疑うところから始まった。ただ、全く予測の立たない行動を取るのが貴乃花という人間だ。ツイッターから状況を追ってみたところ、どうやらこれが本当であることが判明した。
貴乃花の絵本、「光のテーブル」。果たしてそれはどのようなものか。動画が配信されていたので流し見していると、主人公がカエルのカルルであること、そして高く飛ぶのが得意だということがボンヤリと分かってきた。
そして私は目を疑うシーンを目撃した。
色とりどりのカエルに囲まれたカルル。
必死な顔をしながら飛ぶカルル。
そんな彼の様子にこんな言葉が添えられていた。
「おとこは、いちどきめたら、さいごまであきらめるな」
!
2019年の絵本として、全く時代的にもそぐわない価値観。ゲンコツでぶん殴ることすら非合法になった世の中において、男の生き様を幼児たちに伝えても、それは恐らく届かないことだろう。
しかし、問題はそこではない。
そう。
絵本として致命的に不出来な表現だということだ。
「光のテーブル」=「シベリア超特急」!?
考えて欲しい。絵本やアニメ、映画というのは物語を通じて、登場人物たちが悩み、考え、行動し、得られた結果から読者が考えるからこそ、得るものがある。そして、その解釈は人によって異なるからこそ、考える余地があり、読んだ年齢や状況によって響き方が異なる。そこに価値があると私は思う。
恐らくこの物語で伝えたいであろう「おとこは、いちどきめたら、さいごまであきらめるな」というメッセージは、本来カエルのカルル君が成長過程の中で一度決める、そして最後まであきらめない姿勢を見せることから受け止めるべき部分なのだ。だが、絵本作家:貴乃花光司はここでなんと、伝えたい言葉をこともあろうに言葉で表現してしまう。
これは残念ながら、絵本の表現としては0点だ。絵本の構成として不細工と言わざるを得ないし、作者のメッセージの押し付けになってしまうからこそ、響かない。
そういえば私はかつて「シベリア超特急」という、映画評論家:水野晴郎初監督作品で観た、同じ問題表現を思い出した。戦争の悲惨さを伝えるのが主題なのだが、日本人の将軍役を務めた水野晴郎氏はラストシーンでカメラに向かって「戦争は絶対にしてはいけない」というメッセージで締めた。残念ながらそれは、ストーリーの中から我々が考えて、たどり着くべき映画上のメッセージだ。だが、彼はこれを一番映画的ではない表現を用いて私たちに語り掛けた。それ以外にも映画としての表現があまりに拙く、突き抜けているので「シベリア超特急」は拙いことを愛でるカルトムービーとしてのジャンルを確立した。
そうだ。
これは絵本版「シベリア超特急」なのだ。
そう考えた私は、テレビの映像を消音してみずから音読することにした。するとやはり「光のテーブル」は絵本版「シベリア超特急」と言えるものであると確信した。
幸福の象徴は、鍋。
ここからは、「光のテーブル」の動画から各シーンを抜粋したい。そして、言語表現も普段のそれとはかなり異なってくるのでご容赦願いたい。
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カエルのカルルは
ちいさなこうえんいけで、
かぞく4にんと
なかよくくらしていました。
ゆうごはんをたべているのは
まんてんのほしのしたの
ひかりのテーブルです。
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・・・さぁ何を突っ込もうか。
住んでいるのが恐らく公園の池のことなのだろうが「こうえんいけ」という謎の単語が出てくるところも、カエルの一家団欒の場が何故か星の下なのかも、お父さんのカエルはチョビ髭なのも、お母さんカエルを表現するための方法として口紅を塗っているのも色々と引っかかるが、このページで最も気になるのは、団欒を演出するための食べ物が
鍋
であることだろう。
幸せな家族の結びつきを象徴する食い物は、貴乃花の中では鍋なのだ。普通にご飯を食べるというシーンで良いはずなのだが、貴乃花はどうしてもここでこの家族模様に自分という要素を入れてしまう。カルルは俺であり、この一家は幸せな頃の花田家だと説明せずにはいられないのだ。
そして次のページではこんな一コマがある。
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カルルはおかあさんのつくる
ピョンコなべがだいすきです。
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勿論これは、カルルは鍋も好きなのだが、この幸せな空間が好きなのだ。そして、お母さんのことが大好きということを説明せずにはいられないのだ。さっきのページでその辺の家族大好き、鍋大好描写は終わっているはずなのだが、どうしても貴乃花はそう説明せずにはいられない。貴乃花はとにかく家族が大好きなのだ。そういうことなのだ。現役時代には見られなかったが、絵本作家:貴乃花はダメ押しが得意技なのだ。
カルルの相撲部屋入門=飛ぶことで生きていく。
そして情景は変わり、カルルに関する説明パートに移る。
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カルルはとぶことがとくいです。
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へへ、とぶことなら
ボクがいちばんだね
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カラスが居るところまで飛んでいます。とんでもない跳躍力です。カルル君、「ぴょんぴょんぴょーーーーん」という三段階でのジャンプを決めています。ガニ股で、バンザイしながらの独特なフォームです。正直調子に乗ってます。
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そういったら
カラスたちがわらいました
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ハハハ、キミよりももっとたかくとべる
カエルなんていくらでもいるよ
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まじで?空まで飛ぶカエルがこの世界では割とゴロゴロいるようです。そういう世界らしいのです。まぁここはカラスが「井の中の蛙 大海を知らず」というセリフを言わせなかったことを素直に評価したいと思います。ちなみに曙のデビュー直後のしこ名は「大海」でしたが、たぶんそういうところまで考えてはいないと思います。
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うそだとおもったら、となりのくにの
カエルとびコンクールにいってみなよ、カァ~
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どうやらこの世界ではカエルが高く飛べるということは一つのステータスで、それはまるでこの世界で人間が速く走ることを競っているかのようです。挑発的なことを言われたカルルくん、さぁどうなるのか。ちなみにこのカラス、喋れるのにわざわざ語尾に「カァ~」と付けているのは、彼らがカラスであることを過剰に説明したい貴乃花の作家性によるものだと思います。
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カルルは、ムッとしました。
「よーし、それなら
ボクがそこにいって、
ゆうしょうしてやるよ」
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ここでカルルはほかのカエルと高く飛ぶことを競おうと決意します。ちなみに飛びながらずっと同じ高さで留まっていますが、そういう能力がある世界なので特に触れずに居たいと思います。
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するとお母さんがいいました。
「カルル、そんなにとおくにいかないで」
カルルは、みんながとめるのもきかずに
ちいさなこうえんいけをとびだしました。
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止める家族を捨てて、家を出たカルル。鍋に象徴される幸せを捨てた彼は不退転の決意をしています。当然カルルは貴乃花ですから、今更ではありますが高く飛ぶ=相撲、家を出る=相撲部屋への入門を意味しています。
そして今更ですが、子供のカルルを象徴するアイテムとして、赤いキャップを被せていることも見逃せないポイントです。
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ボクのとくいなカエルとびで
みんなをあっといわせてやるんだ
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カルル君、どうなるんでしょうか。これも今更ですが、カエルの彼はこの飛ぶ競技のことを「カエルとび」と評しています。我々が走り高跳びのことを「にんげんとび」と言っているようなものですね。
異国でカルルを待つ苦難
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カルルはなんいちもなんにちもあるいて
となりのくにのおおきなこうえんいけに
たどりつきました。
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移動手段は徒歩しかないんですね。そこはもうちょっと楽させてあげてもいいような気も・・・とはいえ何日か歩けば隣の国に行けるということは、結構この世界は狭いのかもしれません。あと、この国でも池のことを「こうえんいけ」と呼ぶんです。かなり違和感。
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いちねんにいちどの
コンクールにゆうしょうすると、
とくべつなカエルになれるのです。
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ちなみにとくべつなカエルになると何が有るんでしょうかね。
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「よーし、
ボクのスゴイところをみせてやる」
そういってカルルが
とんでみせると、
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「おやおや、そんなんじゃ
コンクールにでることもムリだね」
カルルはショックでした。
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まぁ家を出てすぐ通用したらこの物語は続きませんから、当然こうなります。しかし気になるのはさっきより全然飛べていないことです。カルル君、空高く飛んでたのになんでだろう。
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でもカルルは
おとうさんがよくいってたことばを
おもいだしました。
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あ、なるほど!
ここで来るんですね。
っていうか、あのセリフ、お父さん(貴ノ花)がよく言ってたんですね。この絵本はここまで私小説なんで、そう断言して間違いないところでしょう。
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おとこは、いちどきめたら、
さいごまであきらめるな
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いや、本当に、身近に伝えなければいけない方がいますよね。志した道が中途半端な方が。でもだとしたらどうして絵本っていう手段を取らなければならなかったんだろうか。少なくとも絵本って歳ではないし、カエルに自己投影した私小説っていう手段を選ぶことも無かった。身近な方がいろんなトラブルに巻き込まれてから、そして家庭が崩壊してから伝えることじゃないと思うんですよ。でもそれしか無かったのかなぁ・・・
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カルルは、
まいにち
ひとりで とぶ
れんしゅうを
しました。
いちばんたかく
とんでいる
カエルをみて、
けんきゅう
しました。
ほかのことは、
ぜんぶわすれて
とぶことだけ
かんがえていました。
カルルは、すこしずつ
たかくとべるように
なりました。
きのうより、きょう。
きょうよりあしたと。
そうして、なんねんか
たったころ。
ついにそのひが、
やってきました。
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猛稽古してます。カルル君。藤島部屋を思い起こさせます。とにかく必死です。コンクールで一番になって、とくべつなカエルになりたい想い、そして、「おとこは、いちどきめたら、さいごまであきらめるな」という古ぼけたメッセージがカルル、いや、貴花田を突き動かします。一日、いや、数時間で強くなっているとさえ言われた貴乃花のあの頃のようです。
気になるのは「一番高く飛んでいるカエルを見て」というポイントです。恐らくこれも私小説なので、貴乃花自身もそうしたのでしょう。しかし、千代の富士の研究をしたという話を私は聞いたことはありません。もしかすると初めての告白かもしれません。子供が読む絵本の中で方法論まで説くというのは、これもまた斬新です。もう少し歳を重ねてからのアドバイスにしておいたほうがいいとは思いますが・・・こういうことを子供に言っちゃうと、できてほしいことを褒めてほしいタイプはすねちゃいます。要するに、横綱になりたい子供にしか向かない描写じゃないかと。
あ、あとたぶんこの本で一番大事なのってこのページに尽きると思うんですね。一つのことにひたすらに努力する。ただ努力するだけじゃなくて、考えて努力する。寝食を忘れて誰よりも。それって、この1ページで収めちゃいけないと思うんですね。
例えば、一番飛べるカエルの秘訣みたいなものを発見するページとか、外国のカエルがドン引きする中で、止められても、アザだらけになりながら頑張って、よくわかんないタコができたエピソードとか、なんでもいいんですよ。ここを濃くしなきゃいけないし、絵本という、絵と言葉という方法を最大限に活用することが、この本の説得力を高めることになるわけです。だから、言ってることは素晴らしいのに、残念ながらこれじゃ伝わらない。たぶん貴乃花の現役時代を観た人間が、彼の経緯を考えながら、映像を思い出しながら補完することで説得力を深める作品なんです。
栄光を手にした、カルル。
貴花田が栄光を手にします。
そしてもうここではカルル=貴花田であることを包み隠さない表現があります。
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ゆうしょうです。
「おめでとう!!カルルくん。いままでで
いちばんわかいゆうしょうしゃです」
パチパチパチ!
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そうです。「いちばんわかいゆうしょうしゃ」ということです。カルル君が正しい努力で成し遂げたという話にしたいのであれば、若いか若くないかというのは論点としていらないはずです。でもやっぱりどうしてもここでカルル=俺ということを説明したくて仕方がない。どうしても説明的になるし、カルル君と貴乃花を結びつけるという、本来であればノイズともいえる行為をしてしまうことが、絵本的な表現の強度を落としてしまっていると思うんですね。
本来であれば。
ただ、ここまでは私小説なのですが、後半は少し様子が変わります。そして、もうこれは、絵本という枠を侵食することになります。花田光司の起伏に富み過ぎた大河ドラマを念頭に置きながら読むと、そのあまりの重さにしばし絶句し、もう絵本として0点という評価がいかにどうでもいいものか?ということに気づかされることになります。
ということで、怒涛の後半へ続く。
お知らせ
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3.Instagramサイトをリニューアルしました。大相撲がある日常というテーマで写真を掲載しておりますので、ぜひご覧ください。Instagramサイトはこちら。