幕下相撲啓蒙月間:幕下力士・吐合の5月場所を通じて、幕下相撲を知る。4日目:大神風
幕下相撲とは、何者かに成ろうとする男達の
最後の試練の場である。
人生するかしないかの瀬戸際で、
することを選んだ120人のロッキー達が、
勝つことでしか自己表現できない世界で
己の全てを賭けて闘う。
そこには人間らしい弱さも有る。
その大部分が挫折して辞めていく現状も有る。
だからこそ、私はそこに惹かれる。
幕下相撲とは、私達なのである。
4日目の相手は、大神風。
…すみません。正直知りません。
安芸ノ島の高田川部屋の、24歳の力士。
基本的には三段目での力士人生だが、
ここ1年で幕下にも顔を覗かせつつある、
遅咲きの力士。
諦めずに日々の鍛錬を行っていることが伺える。
今時珍しい、中卒叩き上げ。
こう言うと、なんだか感情移入も出来るというものだ。
ちなみに彼は、とにかく改名が多い。
前田 一輝
→ 前神風 一輝
→ 輝錦 一太郎
→ 威力 太郎
→ 前神風 勝輝
→ 神風力 一輝
→ 大神風 一輝
…輝錦だけが、流れを汲んでいないのが
逆にそそる。
気になる体格は、小兵の部類だ。
いける!
…
さて、立ち合い。
小さい大神風を受け止める吐合。
張って相手を押し込む。
離れたところで身体を密着させ、
左を差す。
こうなれば吐合だ。
一気に押し込む。
速攻炸裂。
吐合圧勝である。
思い切りの良さが戻ってきたか、
直線的に突き押しに出る形を取っている。
自分よりも小さい相手だからこそ出来た相撲なのかもしれない。
大きな相手だとしたら、あそこまで押しに特化したところで
身体が残っていれば土俵に落ちるだけである。
だが、今日の相撲には迷いの無い、
自分の意思が見えた。
私は、こういう相撲が見たかったのだ。
文句なしで、今年一番の相撲だ。
難しい相撲を難しい番付で取る中で、
ようやく見えた光明。
スピードと下半身の粘りが一時期を考えると
少し失われてきた中で、それでも勇気を持って
今の自分に出来る最大限の相撲を取る。
上を観るだけでは分からない、
生き方が存分に現れた相撲。
良かった。
とにかく良かった。
あと2番である。