拝啓 白鵬 翔様
拝啓 白鵬 翔様
名古屋場所が今日から始まりますね。観客席でさえ皆扇子をパタパタとするのが名古屋場所の風物詩ですので、土俵に立たれる力士の方はさぞや暑いことだと思います。力士の方が暑さには敏感なことを存じ上げております。知り合いの元力士の方は3月からクーラー掛けてるほどです。この季節は設定温度が18度で固定です。変更するとキレます。目が座ります。本当に怖いので何とかしてほしいです。
おっと、話が逸れてしまいました。
最近の大相撲は凄いですね。九州場所の終盤戦から3場所連続の連日満員御礼。聞くところによると名古屋場所も15日連続が確実視されているそうです。思い出すのは数年前。例の問題の前後の観客席は悲惨なものでした。あの頃の朝青龍さんとのVTRが流れると、どうしてもそのスカスカの客席に目が行ってしまいます。スカスカなのでオリンピックおじさんやペーさんが目立つんですよね。派手なだけに。
あの頃を想うと、今はなんと幸せなことなのかと思います。
相撲人気の回復については、ファンサービスの充実とか女性を取り込むための努力が色々とメディアでも取り上げられていますね。勿論その努力もさることながら、本当に重要なのはそこじゃなくて、相撲に対してメディアが前向きに報じてくれること。そこだと思うんです。
もう思い出したくも有りませんが、あの頃は公務員と自民党と相撲を叩いていれば大体OKでした。正直、相撲界で突っ込みどころが有れば総叩きでした。ある力士が記者会見で謝罪した時、薄ピンクの着物を着ていたことが叩かれたことも有りました。これ、ただ叩きたいだけじゃないか!当時はそれほど相撲を観ていなかった私さえも怒りましたよ、これは。
酷い時期を乗り越え、新たなブームが興っている。世間も相撲に対して前向きに見てくれるようになった。それは先程書いたような努力も大きいですが、いくら努力したところで相撲自体が面白くなかったらどうにもならなかったと思います。つまり、こうした土俵外の努力は土俵を守り抜いた力士の方が居たからこそだと思うんですね。
よくその理由は遠藤とか逸ノ城とか、最近では照ノ富士が出てきたからと報じられます。昨日の夕刊フジでも「連日満員は照ノ富士効果」と書かれていました。さすがにこれはイラつきました。これは力士の人気じゃなくて、相撲全体の人気なんだと。先場所遠藤休場が確実視されていたのに連日満員でしたからね。更に言えば、新しい力士が際立つのは上位の力士がその実力を発揮しているからです。そして、上位の力士の中でいつも力を発揮されているのは横綱、あなただけです。
強い横綱が相撲の凄さを見せ続ける。
そのことが相撲の品質を高めていると思うんです。
ただ悲しいかな、横綱の素晴らしさよりも新しい力士に人の興味は移ります。横綱はその凄さを昇進してから8年間、休まずに見せ続けてきました。だからこそ、横綱が強いことはキオスクが駅の中に有ることくらい当たり前のことなんです。皆の意識の中で。凄いことは知っています。これ以上ないほど感謝しています。
でも、だからこそ新しい風を期待してしまう自分も居るんです。
凄い横綱に対抗出来るような、凄い力士に台頭してほしい。新しい力士には限界が見えないから、そういう希望的観測をするんです。優勝予想をする時に、横綱の名前を挙げずに他の力士の名前を上げる方が大半なのは、そういうことだと思うんですね。だから昨日もそういう予想をする方と笑ったのが、これはもはや予想じゃないよね、願望だよね、と。
願望として、横綱と対等に張り合ってほしい。観ている側としては凄い相撲を観たい。でもそれが実現できないってことは、つまりそれだけ横綱が凄いってことなんですよ。皆分かっているんです。だから願望が願望を呼ぶんだと思います。
横綱からしたらたまったもんじゃないですよね。ここまで大相撲のためにどん底の時もブームが来ても最高の相撲を取り続けてきたのに声援を受けるのは自分じゃない。一番凄いのは自分だというのに。一番準備しているのは自分だというのに。でも精神的にも肉体的にも、当然技術的にもまだまだ未熟な力士に対して皆頑張れと言う。そして自分が負ければ喜ぶ人間も大勢居る。
泣き言を言いたくなることも有りますよ。ふてくされれたくなることも有ると思います。横綱だって30歳の青年です。一般企業だったらようやく役が付いてくるくらいの年齢です。私も似たような世代ですが、親方世代にまだまだ子ども扱いされてますから、いいと思うんですよ。
でも、横綱は今まで土俵上でも土俵を降りても完璧だったので、そうじゃない姿を見せると皆驚くんです。期待している分だけ落胆するんです。そして、怒りを覚えてしまうんですよ。たとえここまで大相撲のために貢献してきた恩人だと分かっていても、今やらかしてしまうとそちらに目が行ってしまうんです。こんな私も小中学生の頃「マジメ君」の名を欲しい侭にしていた頃が有りまして、学級委員とか毎年やってたんですけどヤンキーの矢野君がちょっと良いことしただけで褒められるのに、私は学級日誌を一日書き忘れただけで鬼のように怒られるんですよね。もうこれは、期待されている者としての宿命なんですよ。仕方ないと思います。
でも、私はそういう横綱の人間的な部分を見ると安心するんです。
ああ、横綱も人間なんだ。それでいいじゃないか。って。
この一年で横綱にも色々有りました。横綱の葛藤を私達も知りました。そして、横綱の人間的な部分を知りました。だから、もっと楽になってもいいと思うんです。
勿論キチンとするところはキチンとする。でも、横綱だって30歳のダワーさんですからやらかすことだって有ります。田代まさしさんなんて58歳になってもやらかしてるんですから、そりゃ仕方ないですよ。ふてくされてもいいんですよ。八つ当たりしてもいいと思うんですよ。後でスパッと「ごめんなさい」すればいいだけです。でも、一度謝るタイミングを失うとどんどん謝りにくくなる。そうすると引っ込みが付かなくなる感じ、分かります。
謝るのって難しいですよね。大企業のトップも芸人さんも俳優の方も、皆これを間違えちゃうんです。そしたら大炎上。SNSで誰もが発信できる時代ってこういうのが怖いところです。でも、だからこそそれが出来たら尚更横綱は凄いと思うんです。
考えてみると今でこそ貴乃花親方は「平成の大横綱」なんて呼ばれていますが、小泉首相の「感動した!」までは整体師の洗脳騒動とか、先代の親方や花田虎上さんとの確執とか有って、かなり厳しい報道をされていたものです。だから、横綱もこれからだと思うんです。
今は正直、色々と良くない時期だと思います。ですが、人の気持ちは変わるし、変えられます。負けると大ニュースになる立場のプレッシャーは相当なものだと思います。新しい時代の到来を期待される立場としてのストレスは何物にも代え難いと思います。しかし、横綱はそれだけの存在なんですよ。だから、他の力士に願望込みで期待してしまうんです。
名古屋場所が終わってどのような場所になるか振り返った時、その中心には多分横綱が居ると思います。そしてその時は「閉塞感しか無かった」と溢すと思います。しかし、それは最高の褒め言葉だと思います。閉塞した時期の長さこそが、横綱の凄さを表すんですから。
長くなりましたが、お体には気を付けて15日間戦い抜いてください。今場所も楽しみにしております。
敬具
追伸
一つ横綱に謝らなければならないことが有ります。昨日の優勝予想で、私は「12勝3敗で稀勢の里」と予想しました。勿論予想ではありません。これは、願望です。
◆緊急告知◆
7月25日(土)16:00から両国周辺でオフ会を開催します。参加を希望の方はプロフィール欄を参照の上、メールにてご相談ください。場所や費用などをお伝えいたします。なお席には限りがありますので、お断りすることもございます。予めご了承ください。
◇お知らせ◇
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