凄くてヤバくて今一番熱い新大関:照ノ富士。新世代の扉を開く彼に掛ける期待と、ヤバさ故に抱く重大な危惧とは?

照ノ富士がヤバい。
もうこれは陳腐な言い方だが、とりあえず最初にヤバいという印象で語っておきたい。もしいきなり渋谷のクラブに放り込まれて「照ノ富士について3秒で話せ」と言われても「ヤバい」と評すると思う。今日本で全世代に一番衝撃が伝わる言葉は「ヤバい」で間違いない。凄くてヤバくて今一番熱い力士、それが照ノ富士である。
誰しもぐーっと伸びる時期が有る。重大な怪我を負う前の時期も有る。そして何より、怖いものが無い時期がある。今の照ノ富士がヤバいのは、この3つが全て備わってしまっている点である。1年近く前に新入幕で優勝と騒がれた時の逸ノ城はこの3つが備わっていたが、まず最初に伸びが無くなり、そして結果が出ないことにより怖いものが出来てしまった。故に今の逸ノ城は当初の衝撃からすると成績が落ち着いているのが実情だ。
だが、照ノ富士はこれを大関昇進と同じ時期に迎えてしまった。これが何よりヤバさに拍車を掛ける。逸ノ城は伸びが一段落して、周囲が彼に慣れてしまったために対策を打たれた。照ノ富士は周囲をゴボウ抜きして更に伸びている。故に生半可な対策では彼に通用しないところまで来ている。
ちなみにそんな照ノ富士を評して、ある人は潜在能力の50%しか発揮していないと言う。「普段はガリガリのポパイがホウレンソウを食べたらあれだけ強くなるのだから、ムキムキのボクがホウレンソウを食べたら…」という吉本新喜劇に於けるなかやまきんに君理論を持ち込んだとしたら、彼は一体どれだけ強くなるのだろうか。
閑話休題。
さてそんなヤバい照ノ富士だが、今日の相撲は圧巻だった。何が驚いたかと言えば、内容はハッキリ最悪だったことに有る。立合では五分。上手を取られたくないはずの碧山が中に廻しを取りに行ったのには目を疑ったが、次の瞬間には距離を取りに行った。そうだよね、と思った次の瞬間、照ノ富士が思い切りバランスを崩した。
普通ならここで攻め込まれる。碧山も相手が得意の稀勢の里ならここぞとばかりになだれ込むことだろう。そして、全国の稀勢の里ファンはここで頭を抱えることだろう。だが、碧山はここで攻め遅れた。この一瞬が決め手となって照ノ富士は碧山の攻めを凌ぎ、パワープレイでなぎ倒した。
つまり、碧山は既に照ノ富士を強者として見ているからこそ、攻めが遅れたのだ。これは番付と本人の実力が追いついていることの証左であろう。半年前だとしたら碧山は照ノ富士をそのまま倒していたのではないかと思う。この半年の実績が、照ノ富士を味方したのだ。
格という名の鎧まで身に纏ったゴールドセイント:照ノ富士。このヤバさは角界の頂点まで彼を誘うのだろうか。そう考えた時、私はふと不安に感じたことが有る。
このまま照ノ富士が頂点を極めたら、直後に彼は悪役になる。
照ノ富士が今支持されているのは、新しい時代の扉を開く可能性が有るからだ。そしてそれは、長く白鵬が頂点に君臨し続けたことに依る閉塞感を打破する可能性と言い換えられる。白鵬という大き過ぎる存在が居るからこそ、照ノ富士は今声援を後押しにして相撲を取れる。
この相撲で頂点を極めた時、人は喜ぶことだろう。だがその悦びは、あくまでも彼が第一人者として君臨するまでの話である。人は慣れる生き物だ。強さに慣れた時、そして新時代に慣れた時、第一人者に対して次の要求をすることになる。
そう。
面白い相撲が観たい、と。
これは歴史が証明している。大鵬の時も、北の湖の時も、貴乃花の時も、勿論白鵬の時も。安定した強さは、退屈を産んでしまう。ファンはその強さに慣れてしまうからだ。そして退屈を打破するために、スペクタクルを要求し始める。
魅せて勝つ相撲。そんなことが出来たのは、大鵬以降であれば千代の富士と朝青龍だけだ。そのハードルがどれだけ高いかよく分からないまま、退屈は大横綱にスペクタクルを求めてしまう。それが出来ない状態で優勝を重ねると、人はその時代に閉塞感を覚えてしまう。「北の怪童」と称された北の湖は、「江川ピーマン北の湖」という揶揄を受けた。「平成の大横綱」と称された貴乃花も、連日満員が途切れたのは彼が横綱として円熟期を迎えた時だ。
照ノ富士の強さは、卓越した守備力に有る。
つまり、スペクタクルとは対極の相撲だ。
守り勝つ相撲には、残念ながら熱狂出来ない。照ノ富士が優勝を重ねれば、間違いなくそこには閉塞感が生まれる。ましてや照ノ富士は闘争心を剥き出しにする上に、ヒョウ柄まで着こなしてしまう。
受けの取口で、キャラは怖い。
しかも怖い系のファッションセンス。
プロレスで例えたら完全に蝶野ではないか。
これはもう、ヒールになるしかない。だが、一度ベビーフェースとして期待を一身に受けた照ノ富士が強過ぎる故に蝶野扱いされた時、果たして評価の変容に納得出来るだろうか。白鵬さえもその評価に苦しみ、今不安定になっている。照ノ富士は大丈夫なのだろうか。ハッキリ不安である。
だが、まだ間に合う。
今からでも遅くはない。むしろ強者になったからこそ、大横綱が声援を受けない構造を照ノ富士に聞かせてほしい。あの白鵬さえも自分を失いかけるほどの苦しみを照ノ富士に課すのは酷だと私は思う。スペクタクルを求めること自体悪いことではない。そういうファンに対して怒りを覚えたとしたら、不幸だと言わざるを得ない。何より白熊が黒くなっては、恐ろしいではないか。
ただ何が凄いかって、大関昇進初日の相撲でこういう危惧をさせることだと私は思う。未来の扉が開かれる予感こそが、私にこのような危惧を抱かせたのだ。まずは、名古屋場所に注目しよう。
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