首投げで制した大一番。豪栄道の覇道は、小説より奇なり。
嘘だろ!?
そんなことが有るのか?
テレビを見ながら、私は叫んでいた。
だが、そんなことが現実に起きていた。
言うまでもなく、今日の豪栄道のことだ。
立合で全て決まる一番。
当たり勝ったのは日馬富士。
起こされた豪栄道。
二人の相撲を考えれば、もうこれで決まりか。豪栄道は2日、相当厳しい闘いを強いられる。どうやって切り替えるか。
悲観的な将来が頭を過ったその時、事件は起こった。
豪栄道が投げを打つ。
土俵際で打つ投げ。
苦し紛れの、いつもの首投げだ。
え?
体勢が入れ替わる。
え?
先に地面に体が付いたのは、日馬富士だ。
この光景を目の当たりにした時、私は冒頭の言葉を叫んでいた。かくして豪栄道は、初優勝をほぼ手中に収めた。
豪栄道を何度となく助けてきた首投げ、というフレーズをアナウンサーが叫んでる。確かに首投げで収めた勝利は数知れない。そして、劣勢の中で放った首投げによって大関の座が守られたことも有った。
だが、豪栄道にとっての首投げは、琴奨菊のガブりや稀勢の里の左からのおっつけとは全く意味合いが異なる。必殺技ではない。出す技が無くなった時、最後の策として出すものだ。相手に中に入られた時に、バンザイの体勢から首に手を掛けて、土俵際で繰り出す。
決まる時も有るが、決まらないことも多い。拾った勝利の数よりも、安易に放つことで墓穴を掘る技。そして何より、首投げに行かざるを得ないプロセスの悪さ。そういう全てが豪栄道の首投げを評価しづらいものにしていた。
首投げは豪栄道の悪癖。
そういう評価が為されてきた。
かく言う私も、首投げについてはそう思い続けてきた。
悪い癖かもしれない。
最悪の内容だったかもしれない。
それでも、豪栄道は勝った。
それも、首投げで。
この結末を昨日の段階で聞いていたとしたら、私は悪い冗談だと思うはずだ。そして、出来の悪い皮肉だと思うはずだ。冗談であるにしても、皮肉であるにしても、笑えない。そういうレベルの結末にしか聞こえないのである。
だが、これは事実だ。
2時間前に、両国国技館で行われたことだ。
NHKが中継してきたことだ。
そして、多くの方が目撃したことだ。
運が良かった。
「神ってた」。
今日の豪栄道をどのようにも表現できると思う。そして、その結末を実力ではない部分に帰結することも出来ると思う。事実、今日の豪栄道は運で勝った部分も大きい。
しかし、日馬富士は豪栄道の首投げが有りながらも、前に出てきた。日馬富士もまた、追い込まれていたのだ。そこに、豪栄道の首投げが炸裂した。
全て運ではない。
だが、運も豪栄道を助けた。
事実は小説よりも奇なり。小説よりも奇なる残り2日の事実は、我々に何を残すのか。更に奇なる事実が生み出されるのだろうか。豪栄道の埼玉栄の後輩のマービンJr.さんはこの首投げを「信念を持って磨き続けたから決まった技」と評した。これもまた、奇なる事実だ。
豪栄道祭は、まだ続く。
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勝つときはこんなもの。
以前貴闘力の優勝後の場所で本人が「あの時はこれで勝てた」ようなことを言っていた。