明瀬山の一番に見る、負け越しの掛かった一番に於ける変化。

幕下の勝ち越しが掛かった相撲について
その苛烈さを昨日語ったばかりだが、
今日は丁度3勝3敗同士の対決が非常に多かった。
お互い勝負が掛かっているので、
技の巧拙は別にしてどれも素晴らしい取組だった。
不思議なもので、普段は心の弱さが原因で
立ち合いの変化を見せたり不利な体勢から
苦し紛れの引きを見せたりするものだが、
こうした様子がほぼ無かったのである。
たとえどんなコンディションであっても
自分の相撲を取る、という
全ての力士に共通して垣間見えた精神性こそが、
今日の取組を魅力的なものに映し出したのだろう。
さて、今日の取組の中で特に
素晴らしかった取組が有ったので、
是非紹介させてもらいたい。


明瀬山。
十両経験が有りながら、怪我が原因で
幕下に地位を落として約1年。
再び十両に復帰して初めての場所で
彼は4勝7敗と後が無い状態になってしまった。
そこから1勝して踏み止まり、
今日は3勝3敗で十両昇進の掛かった
益荒海との対戦。
互いに後が無い対決ではあるのだが、
私は特にこの状況で明瀬山がどのような
相撲を取るのかが非常に気掛かりだった。
ご存知の方も多いと思うが、明瀬山は
173キロの身体が示すように巨漢力士である。
そして、かれは単なる巨漢力士とは異なる特徴が有る。
脂肪の付き方が、肥満児のそれに近いのである。
力士の身体はとんでもない量の筋肉の上に付くため、
脂肪にも張りを生んでおり、力士特有の
脂肪感が生まれる。
だが、明瀬山の場合は見た目がたまに
銭湯で見かけるそれに近い。
のほほんとした表情や立ち合いの独特の
駆け引きの仕方から察するに、
良くも悪くもマイペースなタイプでは?
という思いを抱いており、
この究極のストレスが掛かる局面で
一体彼がどのような顔を見せるか?が
ポイントであった。
立ち合いから張り刺し。
益荒海が怯んだところに攻勢を駆けて
土俵際まで追い詰める。
しかし、益荒海がここで攻めを掻い潜る。
バランスを崩す明瀬山。
巨漢力士が倒される典型的パターン。
だが、明瀬山は倒れない。
大きく崩れたものの下半身にはまだ安定感が有る。
状態を起こすも、益荒海が攻めに転じる。
しかし、見かけからは想像もつかないような
機敏な動きで明瀬山が一瞬先に突きを見せる。
益荒海も応戦するが、手の回転と
突きの重さで明瀬山が土俵際に追い詰める。
的確に益荒海の顔面を明瀬山の突きが捉える。
遂に耐え切れなくなった益荒海が土俵を割る。
明瀬山、勝利。
大きな体とスピード溢れる攻めを武器として
ここまで地位を上げてきた明瀬山だったのだが、
プレッシャーの掛かる一番で
気持ちを前面に出して自分に出来るベストな
相撲を取ることに成功した。
特に特筆すべきなのは、益荒海が
一旦交わした場面で私は明瀬山が
土俵に割る近未来を予想した。
私が知っている明瀬山はここで終わっていたからだ。
だが、彼はそうならなかった。
そして、その後の厳しい攻めもまた、
私の知っている明瀬山は見せたことが無かった。
何が彼をここまで変えたのか。
言うまでも無く、この苛烈な状況である。
地位が人を育てる、という言葉が有るが、
究極の状況が力士を成長させるということも
恐らく有るのだろう。
来場所以降、明瀬山が今日のような相撲を取れるか
私には判らない。
だがこの経験が彼を成長させ、
恵まれた資質にマインドが備わったとしたら
更に素晴らしい力士になることだろう。
人の生き死にが掛かった一番を楽しむ、
というのは残酷な趣味かもしれない。
だが、このような状況だからこそ見られる相撲も
確かに存在しており、これが素晴らしく楽しい。
残り2日で一体誰が成長するのか。
楽しみで仕方無い。

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