幕下の番人・潮光山の引退に見る、幕下相撲の圧倒的現実。後編

十両には届かないが、その一歩手前で定着している
実力派力士。
総合力は有るが、十両昇進するような力士には及ばない。
しかし、若手有望株に対しては経験に裏打ちされた
引き出しの多さで退ける、幕下の番人。
吐合や潮光山、勝誠や前田などが
この役割を担っていたわけだが、
彼らには共通点が有る。


十両昇進のワンチャンスを逃している、
という点である。
潮光山の逃したチャンスについては
余りにもドラマチックである。
Wikipediaを読んだだけでもその熱量が伝わる。
以下引用
2010年11月場所は久々に最高位を更新する東幕下16枚目の
地位であったが、土つかずの6連勝とし、
同部屋の千昇と共に幕下の優勝争いの先頭に立つ。
しかし7番相撲で阿夢露に敗れると、
千昇も德真鵬に敗れて全勝が消え、
1敗8人による優勝決定戦となった。
-中略-
しかしこの大活躍で、2012年1月場所は、
関取昇進の可能性がある幕下15枚目以内に初昇格。
東幕下5枚目として1番相撲で北園に敗れると、
2番相撲から3連勝で3勝1敗とした。
しかし5番相撲(10日目)に飛天龍、
6番相撲(11日目)に荒鷲と関取経験者に2連敗すると
3勝3敗となり、勝ち越しに向けてあとが無くなってしまった。
7番相撲は通常13日目から千秋楽に組まれるところを
1日早い12日目に組まれ、3日連続で相撲を取ることになった
その相手は十両の誉富士。
対戦相手が十両力士であることから初めて大銀杏を結って
土俵に上がった、最初の相撲は潮光山が投げられると
同時に誉富士が土俵の外に出て物言いがつき、
三保ヶ関審判長(元大関・増位山)は同体取り直しを宣言。
2番目は誉富士に押し出されたが、誉富士の体も
完全に土俵についてしまい、同体取り直し。
3番目は誉富士の喉輪攻めに屈して力尽き、
押し出しで敗れたため、健闘むなしくも負け越しが決まった。
世の中にはチャンスをモノに出来る者と
逃してしまう者に大別される。
チャンスを逃した後は面白いもので、
なかなか2度目が到来しない。
吐合も勝負の1番を逃し、
翌場所では結果を残せなかった。
そしてコンディションを崩し、元の相撲が取れなくなる。
十両に迫った実力者だけに期待値は高いが、
その期待には応えらない。
かつての相撲を取り戻そうと試行錯誤を図る。
その姿はアスリートというには余りにも人間的で、
成し得ていない者の苦悩は自らの生き写しとして
感情移入の対象に成る。
私にとって潮光山の引退が重い意味を持つのは
一度夢を見た彼が、苦悩の果てに自己実現すること無く
自らの土俵人生に見切りをつけたからである。
私達がメディアを通じて見ているアスリートは夢を実現し、
「あきらめなければ夢は実現する」言葉を
具現化している存在なのだが、幕下力士の中には
夢にあと一歩まで迫った末に断念せざるを得ない者も居る。
ハッピーエンドでは終わらない、
残酷でリアルすぎる圧倒的現実。
私達が現実世界で直面している不平等と同じだからこそ、
それに立ち向かい、そして屈していく様子に
自らを重ねてしまう。
いや、重ねずには居られない。
チャンスを掴めない者の終着駅。
潮光山の引退には、改めて相撲界の現実の厳しさを
思い知らされるのである。

幕下の番人・潮光山の引退に見る、幕下相撲の圧倒的現実。後編” に対して1件のコメントがあります。

  1. search より:

    やはりそう来ましたか。
    確かに、幕下上位の壁を突き破れずに、幕下上位を最高位に終る。
    本当に「あと一歩だったのに、その一歩が乗り越えられなかった」というのは、この地位ならではのドラマだと僕も思います。
    ただ、潮光山がそこまでたどり着いたのか、というと僕はそこまでの印象を覚えないです。たしかに、あの誉富士戦。僕もネット配信動画でリアルタイムで見ていました。勝負って非情なもんだなとも感じました。とはいっても、あそこで勝っていても十両に更に近づいたとは思いますが、あそこで上がれはしなかったでしょう。
    確かに、あと1勝。
    この壁は大きいのだと思います。
    吐合もしかりで、おっしゃるとおり、吐合は「この1番に勝てば間違いなく十両に上がる」という取り組みがありました。
    ただ、勝誠もまだそういう「大一番」を迎えたことはないですし、現役で言うなら、幕下上位に近年居座っているわけではないですが、錦風なんて、2場所続けて、7番相撲で入れ替えを組まれ、いずれも負け(最初は3枚目で4-2、翌場所が筆頭で3-3での十両戦でした)。ここまで来て、「本当にあと一歩」だったのかなと思います。
    また、春日国や若圭将のように、通常の編成レベルなら上がれる星を残したのに十両に上がれず、未だ上がれずじまい。こんな力士たちもいます。
    確かに、おっしゃることはもっともと思いますし、N.J.K.さんらしい視点で読んでいて面白かったです。
    でも、潮光山は最高位が5枚目。
    僕の印象だと、十両まで「あと2歩」。
    本当にあと一歩まで迫ったのは、僕は潮光山や勝誠ではなく、N.J.K.さんの一押し、吐合だと思います。
    そこまで来て、そこで結果的に最高位が幕下どまりだった。
    そこに本当の難しさがあるように思います。
    もちろん、「そこで得られた1つの白星」で将来が変わることもあろうとは思いますし、年齢もあるのでしょうが、勢のように、7番相撲であれだけ十両力士に負け続けたって、最後、やはり「入れ替え戦」で勝って十両にあがり一気に幕内まであがるような力士もいる。そういう1戦1戦のシビアさに共感するものがある。このN.J.K.さんの視点は僕も感じている視点だと思います。
    今回も面白い視点での考察、ありがとう御座いました。

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