日馬富士に芽生えた覚悟と、乗り越えた稀勢の里。白鵬への挑戦権の行方は?

もう10日目が終わってしまった。
相撲というのは始まるまで首を長くして待ち、
始まってしまうとあっという間に終わってしまうものである。
だが、我々にとってはあっという間の15日間ではあるが、
力士にとってはそうではない。
この15日間の中、常に自分を高い状態で保たねばならない。
そしてそれは、簡単なことではない。
例えそれが横綱であっても、大関であっても。
近距離で衝突し、押し合い投げ合う。
稽古の通りの形に成ることの方が少なく、
あとは流れの中で本能的にどれだけ体が動くか。
一つ間違えると、致命傷に成りかねない。
それが、相撲という競技なのである。
そうした怖さを、日馬富士と稀勢の里は味わい、
そして今、互いが互いの回答に近づきつつある。


日馬富士は、序盤に2つ星を落としたことにより
大変な批判に晒された。
横綱に勝ったことの無い、松鳳山と碧山。
本来負けるはずのない相手である。
彼らは確かに見事な相撲を取ったが、
状態の良い日馬富士であれば対応出来ていた。
つまり、日馬富士は彼らに負けたのではなく、
自分との戦いに敗れたということである。
最近の不調から、日馬富士がやらかした時の批判は
本当に目に余るものが有る。
メンタルは掻き毟られ、物事が悪い方に向かうのが
これまでの日馬富士だった。
だが、様々な葛藤が有る中で、日馬富士は
一つの結論に至った。
自分の思うがままに、我儘な相撲を取ることに徹したのだ。
立ち合いの変化。
張り手。
開き直った時の日馬富士は強い。
以前もこんな時が有った。
だが、世間から求められる横綱像が邪魔をして、
なかなかそこには戻れないのだ。
しかし日馬富士は、覚悟を決めた。
周囲が何を言おうとも、自分は自分の相撲を取る。
そして、稀勢の里。
彼もまた、日本中の厳しい監視の目が当てられる中
失敗が許されない立場の力士である。
自分の形が出せれば良いが、それが出来ないと
あっさりと敗れてしまう。
大関として優秀なのは誰もが分かっている。
だが、彼に求められているのは、横綱という立場なのである。
ひたすら強さに向き合い、向き合い続けるために
弱さを見せてしまう。
これほど皮肉なことが有るだろうか?
ならば、何も考えない方が幸せではないか。
マイクタイソンのように、粗暴にふるまっていた方が
結果が出るのではないか?
だが、彼は強いだけではなく、力士としての
品格も求められている。
強いだけが力士の価値ではない。
9日目までで既に2敗を喫した稀勢の里は、
ここ2場所、辛酸を舐めさせられ続けた琴奨菊に対峙した。
もう、トラウマという言葉でしか表現できない相手である。
ここで稀勢の里は左下手をガッチリ固め、
相手の左を許さずに、前への推進力を止める。
守りの形だ。
思ったように自分の形を出せず、手詰まりになる琴奨菊。
あとは、前に出るだけである。
この2場所の宿題に、一つの答えを出した稀勢の里。
2敗はしているが、確かな前進だ。
このまま順調に行けば、この両雄は
13日目で対決することになる。
今日、とったりに失敗した白鵬は、もう同じ轍を踏まないだろう。
つまりこの対決は、事実上の挑戦者決定戦なのだ。
互いに苦悩し、互いに解を出す。
15日間という大変短い期間の中で、分刻みで、いや、秒刻みで
成長する力士たちの熱いドラマがそこには有る。
あと2日。
順調に山を越え、到達点同士の戦いが実現すれば、
それは恐らく、凄い闘いになる。
私は、そんな二人の生身の人間による、
素晴らしい取組を期待したい。
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