豪栄道と吐合。2004年の全日本相撲選手権で対決した両雄の辿った9年間から、相撲を取る意味を考える。
豪栄道が大関獲りに挑む、九州場所。
高校相撲出身で、当時から澤井と影山と言えば
全国にその名を轟かせる存在だった。
豊作として知られる昭和61年世代で
高校横綱だったのだから、若くして時代をリードする
存在だったと言えるだろう。
その実力が当時から突出したものだったエピソードとして
2004年の全日本相撲選手権大会での出来事が挙げられる。
学生やアマチュア力士が絶対的優位を誇るこの大会に
高校3年生で参加した澤井は、史上4人目となる3位に輝いた。
史上4人目というところにも彼の逸材たる
潜在能力を窺い知ることが出来るが、この澤井、
実はこの大会でもう一つ大きな仕事をしているのだ。
何と彼は、準々決勝で当時の学生横綱を破っているのである。
つまり澤井はただのフロックではなく、
正真正銘の実力者を下すことによって
この快挙を達成しているのだ。
そして、その相手の学生横綱というのが、
あの吐合である。
元学生横綱で、鳴り物入りで各界入りした吐合。
幕下5枚目まで上がった後で、力士生命を大きく変えてしまう
膝の怪我を負い、付け出しデビュー力士としては
史上初めて番付外まで地位を落とした。
元学生横綱:吐合はこの時に死を迎え、
膝を痛めながらも技術と前への推進力で生き抜く
幕下力士:吐合が誕生した。
幕下で一進一退を繰り返すこと5年。
あと1番勝てば十両というところで里山に敗れ、
その後一旦三段目に転落した後、
幕下40枚目で九州場所を迎えている。
あの全日本相撲選手権で対戦した当時の2名は
片や高校横綱、片や学生横綱と互角だったのだが、
9年の歳月を経て辿った彼らの航路は全く異なる。
永く3役でその壁に向き合い、ようやく
大関獲りの大チャンスを掴んだ豪栄道。
怪我によって将来が暗転し、新たな自分を創り上げて
31歳の今も十両を目指して苦闘する吐合。
もう、この両者が土俵で相見える機会は
無いと言ってもいいかもしれない。
9年の歳月は、2人の立場を大きく変えてしまった。
だが、二人に共通していることが有る。
相撲を取り続けていることと、
己の限界に挑み続けていること、である。
地位や立場は違えど、相撲を取るということは
生き方に向き合うことを意味する。
弱さを見せればそこに付け込まれ、
その弱さというのが大抵の場合人間的な弱さなのである。
年齢と言う名の時限爆弾は、誰にも平等に牙を剥く。
27歳の豪栄道にとって、大関獲りはこれが最後のチャンスだろう。
31歳の吐合は、既に衰えてもおかしくない年齢である。
そういうものにも、彼らは向き合いっている。
廻しひとつで、土俵で戦うというのは覚悟が要ることだ。
有名であれば様々な方面から雑音が聞こえるし、
無名であれば力士としての死:引退の声が聞こえてくる。
だから、彼らは結局同じものと闘っているのだ。
土俵に立つこと。
それそのものが人生するかしないかで、
することを選ぶことなのだ。
弱さを見せることも有るかもしれない。
腹を立てることも有るかもしれない。
だがそういう姿も含めて、全てが相撲なのである。
愛嬌の有る字を書く豪栄道。
絵が普通じゃないレベルで上手い吐合。
二人の男の人間臭い闘いを通じて、
私はこれからも相撲の魅力に触れていきたい。
◇特報◇
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