【個性派列伝】Vol1.深尾(明瀬山) 其の3

恵まれた体格とスピード、そして対応力で
幕下ではトップに君臨する深尾。
ブヨブヨの身体は幕下では脅威となり、
エリート達に相撲のある種の奥深さを
余すことなく見せつけているのだが、
残念ながら未だ十両には定着できていない。
これほどまでに武器が明確で、
攻守共に隙が無いように見える深尾であるが、
彼が十両で直面した壁とは一体何だろうか?
答えは、彼の武器にあった。


深尾は体格、スピード、そして対応力で
ここまでのし上がってきたわけだが、
遂に十両ではこれらが通用しなくなってしまったのである。
つまり、体格にモノを言わせる深尾地獄も
大した地獄ではなく、またスピードであれば
モンゴル人にもっと強烈な奴が存在する。
武器が通用しなければ、深尾はもはや
只のデブ(チャンク)である。
そう。
北斗神拳が効いてしまうハート様みたいなものである。
そして、これまでの武器故に深尾は今、
次のステージに登りかねている。
スピードも体格も、先天的に身に付いているものであり、
つまり深尾は相対的に見て今まで努力をしなくても
結果が出せる環境に居たわけである。
努力をしなくても結果が出せる。
そんな奴が結果を出してしまえば
どうなるだろうか?
そう。
努力しないまま結果を出すことを選ぶわけである。
考えてみてみよう。
相撲取りが普通、いわゆる生活様式に身を置いたら
どうなるだろうか?
普通の相撲取りの体型になることは
想像に難くない。
つまり、深尾がいつまでもあの体型であるということは、
稽古量が絶対的に足りていない、
という仮説を立てることが一番自然なのである。
そして、先天的な要素に加えて、
彼独特の対応力がある。
それは彼の立ち会いに顕著に現れる。
立ち会い。
普通両者が四股を踏み、手を土俵に付く。
そして互いの呼吸が合ったところで
対戦が始まる。
だが、深尾の場合は、意識的にこの呼吸を
自分のペースにしようと八方手を尽くす。
相手が手を付く。
深尾はまだ相手に対して半身で、
スクワットのような体勢を取っている。
手を付いた相手は待っている。
だが、深尾はまだ手を付かない。
スクワットの姿勢を崩さないのだ。
段々相手が焦れてくる。
見計らったかのようにワンツーパンチのような
ポーズで手を付き、対戦が始まる。
勝負の趨勢は立ち会いで決まる。
深尾が有利な体勢になる。
後は深尾地獄で追い詰める。
悠々と勝利する。
こうした反則スレスレの立ち会いは、
経験と共に産み出した深尾戦法とも言うべき
独特の戦い方ではあるのだが、
どちらかと言えばハードに身体を鍛えたり
相手を研究するといった尊い努力と比較すると
ズルして相手を出し抜くという、
楽して勝ちたい人が取るべき戦略と言わざるを得ない。
そう。
深尾の体型のだらしなさは、彼の相撲スタイルにも
大きく影響を及ぼしているのである。
身体もだらしない。
相撲もだらしない。
だから、深尾は深尾なのであり、
人の目を惹く異彩を放つのである。
こんな男が一人くらい、幕下だからこそ
輝いてもいい。
そう深尾は思わせるのである。
続く。

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