18歳の阿武咲が切り開く、背水の陣の強さ。モンゴル人が持ち、日本人が喪失した強さの持つ意味を考える。
幕下3枚目の阿武咲が、勝ち越しを決めた。
十両経験も豊富な明瀬山との対決で、
170キロを超える巨漢とどのように対峙するか
注目していたのだが、予想以上の結果だった。
下から攻めて、下がる明瀬山。
土俵際まで追いつめるのは誰でも出来る。
徳俵に足が掛かってからが難しいのだが、
阿武咲の圧力が想像以上で、あっさり土俵を割った。
明瀬山に関しては十両の力士でも手を焼く力士だ。
組み止められずに絶えず動き、攻め続けることが
明瀬山対策として求められるが、それを完遂した。
正直なところ、このミッションは難しいのではないかと考えていた。
それほど巨漢対策というのはある程度時間が掛かるし、
私が知っている阿武咲はそこまでの圧力が無いと感じていたからだ。
だが、ここに来て阿武咲は想像以上の相撲を取った。
それが驚きだったのである。
阿武咲が極めて関取に近づいたことには大きな意味が有る。
それは彼がまだ18歳で、学年で言えば高校3年生だからだ。
先日記事にした輝は、17歳で幕下昇進したことから
その将来を嘱望されたが、腰高などの課題から
結局十両の昇進は20歳まで待つことになった。
しかし、これでも十分早いのである。
阿武咲が昇進するとなると、歴代10位相当。
これよりも早いとなると、貴乃花、萩原(稀勢の里)、北の湖、花田(貴ノ花)
といった年少記録の常連にしてビッグネームがズラリと並ぶことになる。
阿武咲の記録が凄いのは、先述のビッグネーム達が昇進した頃と
比較すると大変厳しい状況に有るためである。
上位にも十両にも、外国人力士達が溢れかえり、
更にはアマチュア相撲界で技術を突き詰めた、学生相撲のエリート達も
過去と比較すると多く存在している。
つまり、年少記録を打ち立てるには越えなければならない壁が
非常に多いということである。
そして、阿武咲の昇進が大きな意味を持つもう一つの理由が有る。
そう。
近頃の力士は入門が遅い上に、大相撲を目指さない者すら増えているからだ。
先述の力士を見ての通り、相撲というのは
入門が早ければ早いほど実力が伸びる傾向に有る。
昇進の年齢が早ければ早いほど、
その後の昇進についても可能性が残される。
学生相撲出身力士は、完成度が高い反面で
形がある程度出来ている分だけ思った以上に伸びない傾向が有る。
あくまでも傾向なので、全ての力士に当てはまる訳ではないが
残念ながらこれは事実である。
力士達とてそれは分かっている。
だが若い入門が減っているのは、不景気と言われて久しい
社会的な事情が有る。
それを如実に語るのは、ここ10年の中学横綱の進路だ。
殆ど全ての中学横綱が大学進学を果たしたどころか、
貴乃花部屋の佐藤を除いて大相撲入りすらしていない。
今年18歳の佐藤よりも前に大相撲入りしているのは、
現在28歳の栃煌山である。
強さを突き詰めた者は、更なる強さを渇望する。
そして、一度大舞台で注目を集めた経験の有る者は、
更に大きな舞台での活躍を渇望する。
だが、強さを極めた者達が強さというフィールドから
一様に降りてしまう。
彼らにとってそれは、苦渋の決断だろう。
何故なら、彼らにとってのアイデンティティは
あくまでも強さだからだ。
自らのアイデンティティを放棄し、安定の道を選ぶ。
悲しいことではあるが、これが相撲の現状だ。
そして、退路を断って外国から大相撲を目指す
ハングリーな外国人力士達に席巻されているのもまた、
大相撲の現状である。
阿武咲が改めて示したのは、今日本人力士達が失った
ハングリーさであり、退路を断つ強さである。
私には、それが嬉しかったのだ。
モンゴル時代が続く中、彼らに対抗するのに必要なのは
こういう事なのだと私は思う。
最後に、そんな阿武咲が3勝した後に残した
ツイートを紹介したいと思う。
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お陰様で今日も勝ちました!
リーチがかかりました。
なにがなんでも掴み取ります!
人生変えてみせる。
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18歳の少年の口から、人生変えるという言葉が出る。
それが、阿武咲の強さなのだ。
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